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『足利アナーキー』生きる意味を問う哲学的不良マンガ

投稿日:

著者:吉原さん

さて、前々回の記事で、以前書いた『足利アナーキー』の記事を再掲しましたが、無論まだまだ語り足りませんので続けます。

今日はそのテーマのひとつに迫ってみましょう。

つまり、なぜケンカをするのか?

単純に、読者が「強え!」とか「熱い!」とか「ヤベー!」とか「ガチ」とか言いながら暴力を楽しむような、そういうマンガじゃないんですよ。

それでは、よろしくお願いします!

なぜケンカをするのか?

主人公の黒澤春樹(クロサワ ハルキ)は高校3年生になったばかり。

生徒指導の唐沢先生との二者面談で、この時期にギャングをはじめたことを諌められます。

唐沢「日本はなぁ… 多数決社会だ 多数派になった物事が正しい」

ハルキ「」

『足利アナーキー』日本は多数決社会

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #11「クロサワとカラサワ」)

悪いからダメだとか、犯罪だからダメだとか、ダメなものはダメだとか言わないあたりちょっと信用できそうな大人って感じがします。

ハルキの表情はなにか思案気ですねー。地味な一コマかもしれませんが表情が上手い。

ここで唐沢先生に問答をしかけます。

なぜ暴力はダメなのか?

「何で、暴力って 皆嫌いなの?」

ハルキは暴力をジェットコースターに例えます。

人はジェットコースターそのものが好きなわけではなく、そのスピードやGのハラハラ・ドキドキが好きでジェットコースターに乗っている、と。

ハルキは暴力そのものが好きなわけではなく、ハラハラ・ドキドキを感じるための手段だと主張します。

対して、唐沢先生。

唐沢「ダメだ」

『足利アナーキー』暴力はダメだ

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #11「クロサワとカラサワ」)

とバッサリ。

その表情には力強い覚悟がみなぎります。しっかり生徒指導してますね。モブのする表情じゃない。

唐沢先生は「基本的には自由でいいが、皆、平等な価値や権利がある。それぞれの価値や権利がそれなりに尊重されるためには多数派の決めたルールに従う必要があり、誰しも我慢して皆に合わせるのが基本なのだ」と集団の中で生きていくことを説きます。

ハルキはその人間の価値そのものに疑義を申し立てます。

人間に価値はあるのか?

ハルキ「具体的に どれくらい人に …価値があるんだよ」

『足利アナーキー』人にはどのくらいの価値があるのか

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #11「クロサワとカラサワ」)

ハルキはさらに続けます。

「価値があるなら、その価値が具体的にどのくらいあるのか知りたい」

「しかし。人間社会や集団生活で、その価値や権利は尊重されるのか?」

「そもそも価値はあるのか?」

「知ることで人は何か変わるのか?」

「例えば虫。虫がいなくなると地球全体の生態系のバランスが崩れるが、人間この世からいなくなれば地球は今よりずっと良くなる」

ハルキ「そんな虫以下の人間に…生きる価値があんのかよ」

『足利アナーキー』虫以下の人間の生きる価値

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #11「クロサワとカラサワ」)

これは、屁理屈を振り回して大人に突っかかったというよりも、ハルキの青少年らしい(そして人間らしい)葛藤と疑問なのでしょう。

すなわち「人間はなんのために生きるのか?」

そんな根源的な問いを抱えているのです。

ハルキにとっての「生きる意味」

一拍の間を置き、ハルキは「生きる価値」その自分なりのアンサーを話します。

「あの瞬間だけは、具体的に意味・価値を感じることができる」

その瞬間とは?

…喧嘩。

彼は言います。

喧嘩ってのはな

スポーツでも音楽でも芸術でも味わえねぇ…

もっと根本的な"熱"がある

『足利アナーキー』喧嘩への熱

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #11「クロサワとカラサワ」)

そして、その頂点に立つことは、何よりも難しく、膨大で、壮大な生命力が必要であり、さらに自分は日本一のギャングになるのが夢なのだと曇りなき眼で言い放ちます。

美しい動機、不健全な手段

そうなんです。

手段のジャンルが非合法なだけで、やろうとしていることは実に根源的な闘争心に基づいています。これがスポーツなら全然批判されませんね。『スラムダンク』の桜木花道も実に健全な道でそれを発揮していました。

この作品も、まっすぐなエモーションに突き動かされた、ある種の"青春マンガ"と言っていいでしょう。どちらかと言うとスポーツマンガのテーマに近いのです。自己の力の証明、自己の欲求の追求の物語。

その力の証明手段がどこまでもアナーキーなだけ。

…まぁ、それが問題か。

しかし、生徒本人にここまで言い切られると確かに生徒指導しづらいですね。わかってやってるわけですから。

それでも責任ある立場の大人たちは止めないといけないわけですが…。

この生命力には、逆らえない

ここで、ハルキらの抗争中に示されたモノローグを、ちょっと長いですがそのまま引用します。

ハルキは人生に意味や目的を求めるタイプだと思いますが、その彼の導き出した価値観がありありと表れている場面です。

17年間生きてきて、もろもろ考えた末の、この刹那の生きる意味がこれなのです。

結果として暴力の只中に身を置くという結論以外はものすごく同意。

人はパッションで生きるべきだと思います。

…何を…求めるのか…

愛か…平和か… 強さか…争いか…

楽か…喜びか… 幸せか…金か…

その先になにがあるのか

生か…死か… 快楽か…悦楽か…

充実か…単調か… 目的か…目標か…

求めることに意味はあるのか

意味は必要なのか… 意味があるのか… ただ生きることか…

求めないことか 求めることか 受け入れることか

いずれ死ぬ 生命にとって…

役割のない 人間にとって…

いずれ死ぬ命は…

求めることも… 受け入れることも… 悩むことも… 考えることも…全てが無駄なのか………

『足利アナーキー』人間が生きる意味とは

……この先に…一体何があるのだろう……

『足利アナーキー』生命力の疾走

…ただ…一つ たった一つだけ… ある

真理…真実

…この…体中に伝わる熱だけは…

この生命力だけは…逆らえない

『足利アナーキー』生命力には逆らえない

(秋田書店/吉沢潤一『足利アナーキー』3巻 #26「熱」)

ちょっと長かったのですが、まるごと紹介すべきだと思ってくり抜きました。

いかがでしたでしょうか?

この閉塞した時代に生きる平成ティーンエイジャーの生きづらさ。

そして、疾走する本能的な生命力の勢いが伝わってくるのではないかと思います。

いや、ほんと。ここまで描かれたら「読むしかない」ってなりますよ。一漫画読みとしては。

その動機に一種の清々しさを感じつつも、後味の悪い「暴力」の表現が混じり合う、というまるで読んだことのない仕上がりの作品になっています。

まとめ

端的に言って「生きる意味」を問う青春マンガです。

その対象が"暴力"っていうのは普遍性のある素材ではないと思いますが、本質的な意味では普遍性のある作品だと思います。少なくとも、そこに切り込もうとしている。

「人間」というものに切り込もう、と。

普段、こういったジャンルの作品を一切読まない方もいると思いますし、またやはり暴力描写に不快感を感じることもあるでしょう。

なかなかオススメしにくいのは確かなのですが、少しでも興味が持てたらぜひ挑戦してみて欲しい作品ですね。

暴力そのものの描写でも、「人間」を描こうとする姿勢があります。そのことはまた次回。

それでは、また!

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