『母がしんどい』支配と依存と自立の見本市。大人になって気づいたけれど、大人は案外大人じゃない

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著者:吉原さん

今回は田房永子『母がしんどい』をご紹介します。

たまたま見かけた本で、タイトルが気になったので購入(私は体験記ものに惹かれる)。

結構TVや新聞でも有名になった作品だそうなんですが、それだけ話題になるということは、社会的に需要のある内容だったのでしょう。

社会全体が幼稚化してきていることと無関係ではないはずです。

(じゃあ自分が「立派な大人」か、と問われれば父や祖父の背中を目に浮かべながら考えると「うーん……」とうなってしまうのだけれど)

それでは、よろしくお願いします!

親の「支配」からは逃げられない

大なり小なり親からの「支配」を受けることはしかたがありません。

善悪ぬきでそりゃそうでしょう。

自分で餌がとってこれないうちは、親の支配を受け入れざるをえないのです。

「支配を受ける」という表現が不適切なのであれば、「完全な自由はない」とでもしましょうか。

自分で責任をとれないうちは、自由になんでもやっていいという風にはいきません。

下記の一コマは勝手にお母さんがピアノ教室に申し込んだエピソード。

確かに女の子にはあるあるかもしれませんね。

むりやりピアノ教室

(中経出版/田房永子『母がしんどい』[第一章]お母さん絶好調 「突然始まる習い事 そしてお年玉が……」)

しかし、なんの説明・同意を得ることなく勝手に習い事を決められて、貯めていたお年玉の10万円まで引き出されて電子ピアノを買われてしまってはたまったもんじゃなありません。

幼きエイコちゃんには「ここどこ?」「ピアノってなに?」のレベルなのですから、いかにこの母がエイコちゃんの意志を完全に無視しているかがわかります。

引き締めた手綱をどう緩めていくか

生まれたばかりの赤ちゃんに「完全な自由」を与えたら、すぐに事故が起きるでしょう。

かといって。

成人するような人間を完全に自分の命令下に置いていては、弊害の方が大きいのは火を見るよりも明らかですね。

ひるがえって、子どもの発達段階にあわせてどの程度縛るか・どの程度緩めていくか。適切な匙加減が求められてくる問題になってくるのでしょうが、これが難しい。

親にとっても初めての経験ですし、子どもは一人ひとり発達段階が違う。

上の子ではこれで良かったのに、下の子でも同じようにするのが正解とは言えないわけです。

よく、「同じように育てたのに…」と言いますが、そもそも環境として、上の兄弟がいるか、下の兄弟がいるかというところが違うだけでも随分違います。

リセットしてやり直すこともできないので、親も子どもも常に手探り状態。

随分成長したと思っていても、別な部分ではびっくりするほど成長できていなかったり(または変な風に成長してたり)。

「失敗も勉強のうち」と思って失敗を許容しようとしても、命や後遺症につながるような失敗はやっぱりさせられない。

「子どもを信頼する」とはよく言われるものの、なかなか頭の痛いところです。

しかし、私は絶対に言ってはいけないこともあると思っています。

以下が、それですね。

「あんたは子供だからまだ何も分かんないの!」

お母さんの言うとおりにしてればいいの!! わかった?」

母がしんどい2

(中経出版/田房永子『母がしんどい』[第一章]お母さん絶好調 「パニックプリマドンナ」)

子どもだから知識がないことはあっても、子どもだから意志がないなんてことはありえません。

そして「お母さんの言うとおり」が結果的に正しかったことがあったとしても、子どもが死ぬまで親が面倒見てくれるわけでもありません。

親が真に子どもに与えなければいけないものは「エサ」ではなく「エサの取り方」です。

自分で生きていく術を学ぶためには、しかるべき段階において「自分の意志で行動」して成功と失敗を味わいながら進んでいくことが肝要なのだと思います。

野生生物なら、きっともっと簡単

ライオンの子どもは背中に模様がついているのを知っていますか?

「百獣の王」と称されるライオンであっても、子どものうちはハイエナなど他の捕食生物に食われます。

なので、迷彩のために模様があるんですね。

それが無くなる頃というのはひとつの成長のシグナルになるはずです。物理的に"そろそろ襲われることはないよ"と身体の変化が教えてくれるというわけです。

また体の大きさやオスのたてがみなど、単純に見た目で独り立ちの準備が整のったことがわかれば話は簡単ですよね。

人間の場合は歯や爪で給料を稼いでくるわけでもないですし、ハード面よりもソフト面がより重要な意味を持つ複雑な社会で生きているので、なかなか本人の成長段階をはかるのが難しいのです。

ソフト面は画一的な評価もできませんから。

…と、私も親なので先々いろいろ心配したりもしているのですが、田房家では一切そんなことは勘案されなかったようです。

以下は、就職活動の時期を迎えるにあたっての田房家の一場面。

エイコ「私さ、いつか自立して一人暮らししようと思うよ」

 母 「は? 何くだらないこと言ってんだお前は バカか!!

エイコ「ええ、え?!」

母がしんどい3

(中経出版/田房永子『母がしんどい』[第二章]家からの脱出 「一世一代の頼み事」)

健全な一幕だと思うのですが、一体何に対して母は怒っているのか。

理解に苦しみますが、やはり子どもを従属物と扱っていていることの証左なのでしょう。

あれですかね、アメリカ南部の白人地主がいきなり奴隷から「今度、独立しようと思います」って言われたらこんなリアクションなんでしょうか。

「依存」は辛いか楽なのか

「管理」の鎖はほどくタイミングや、そのほどき方の調整が難しい。

そして「家庭」という密室空間の中では、異常なことも「ふつう」のこととしてまかり通るところに恐ろしさがあります。

止めてくれる人がいないので、終わりもありません。

自身で選択と失敗を繰り返しながら健全な成長をしていけなかった場合は、親への「依存」から抜け出せなくなりスポイルされた人格ができあがります。

・・・しかしそれって一方的に不幸せな状態かどうかってよくわからなくって、どうも他人に思考の一部を預け渡している人って「楽」そうではありますよね。

それは家庭のうちの権力者であったり、職場の権力者であったり、宗教であったり、スピリチュアルななにかであったり、思想・信条であったりしても同じです。

安心するんでしょう。

支配されるという特権

昔、スーパーファミコンで『タクティクスオウガ』ってゲームがありました。

その中の悪役の騎士が言うんですよ。

「支配者は与えるだけでよい」「支配されるという特権をだッ!」と。

まさにこのことが端的に示していると思うのですが、支配されるということは、「自分で決めて」「自分で動いて」「自分で責任をとる」という自由だけどしんどい生き方をせずともすむんです。

まぁ、「楽」なんですよ。

でも"支配者"が常にそばに居て、すべてを決定してくれるわけではありません。

自身の意志が求められる状況以下のような状態に陥ってしまうわけですね。

(エイコ)

「私は何でも人に聞かないと決められない ずっとお母さんに決められてきたから…」

母がしんどい4

(中経出版/田房永子『母がしんどい』[第二章]家からの脱出 「エイコの決断力1」)

現実的には「依存」は楽でしょうが、不幸への片道切符です。

「それなしでは生きていられなくなる」のは麻薬と一緒かもしれません。

辛くとも自立して生きていくことが幸せへの第一歩と言えるでしょう。少なくとも「納得ある人生」につながるはずです。

「自立」への道は他者の助けと「自分の意志」

エイコは夫に甘えることでなんとか息をついて心のバランスをとりながらも、本をむさぼり読んだり、講演会や勉強会、セラピーや精神科の医師にかかることで解決をはかります。

そして客観的な評価を受け入れ、アドバイスを素直に取り入れて生活を変えていくことで、自身のことや母のことを客観的に整理し、少しずつ克服していくことに成功。

人が変わるということは絶対に簡単なことじゃないんです。実際に変わることができたのはやはり作者の本気度が高かったからでしょう。

自身が妊娠・出産をしたことも大きかったんじゃないでしょうか。近藤ようこ『ホライズンブルー』に見られたような「負の連鎖」を止めたかったのかもしれません。

「自分の味方は自分しかできないもんね」

母がしんどい5

(中経出版/田房永子『母がしんどい』[第四章]しあわせ 「3年後」)

上記はこの作品の最後のコマですが、まったくその通り。

よく言われることですが、他人をおもんぱかれるのは「本人の自立」あってこそです。

まとめ

幼少期からはじまる絡みつく母の支配からの独立までを、的確に表現してマンガ化しています。

しっかり取り組んで勉強されたことも身になっているんでしょうね。

歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』は親子関係に正面から取り組んだ事例ですが、『母がしんどい』の場合は「親子関係からの脱出」というひとつの成功例として、一見の価値がある作品です。話題になるのはわかりますわ。

「なかなか親を捨てられない作者が悪い」という批判と同時に「親を捨てるなんてとんでもない」という批判も多く受けているようで大変だなと感じましたが、よく作品化したと思います。

ふと、思い出した一節

別のマンガ作品ですが、河合克敏『とめはねっ!鈴里高校書道部』で一躍有名となった、

【迷いながら ぶつかりながら 揺れながら 過ごした日々を いとしく思う】をふと思い出しました。

そもそもは(雷鳥社/タクマクニヒロ・加藤千恵『写真短歌部 放課後』)の一節だそうです。

作者にとって、母からの脱出は「迷いながら ぶつかりながら 揺れながら 過ごした日々」であったのだと想像します。

真摯に取り組んだ作品です。おすすめ。

それでは、また!

1巻完結!

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