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『精G 母と子の絆』②認知症の妄想を可視化するとこうなる!やっぱり「ホンマもん」は違う…

更新日:

著者:吉原さん

さて。

長くなっちゃったんで2回に分けました。前回の記事はこちらです。

今回は認知症からくるであろう、精Gの母の「妄想」を中心に書きます。

物理的に迷惑をこうむる方はたまったものじゃないんでしょうが、この「妄想の可視化」はすごく面白い試みでした。

それでは、よろしくお願いします!

母の終わらない妄想

もしかすると、これが今回いちばん描きたかったものなのかな? とすら思います。

認知症の母の妄想をそのまんま、時にそれを膨らませて絵的に表現するんですね。

いや、これは面白いです!

ひさうち先生も巻末対談でこう言っています。

自分が若いころにそういう妄想癖のある人を主人公にして描きたいと思ってたんですが、言動を作るにしても、何かありふれたものになってしまうんですね。

でも経験してみて、やっぱりホンマもんは違うなって(笑)。

作ろうとしていないですからね、本人は本気ですから。

(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』巻末対談 林 静一×ひさうちみちお 母の介護は神様の贈り物)

そうなんだろうなぁ~。やっぱりホンマもんは違うんですよ。

そしてその妄想をさらに精Gが発展させることで、いかにもバカバカしく思わず笑いがこぼれます。

足が治らないのは隣人が願かけしたせい

例えば。

ある日、母から精Gへ電話が。

退院したのに足が治らないのは隣の張田が願をかけているせいだと言い張ります。

なんでも裏にいる「拝み屋」に頼んでいるのだとか。

(「拝み屋」なんて『孔雀王』みたいでカッコいいですね)

張田「西のおばはんの脚が治りませんようになにぶんひとつ……」

拝み屋「よしよし」

拝み屋に頼んで願をかける張田(妄想)

(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第六話)

母の「張田が拝み屋に頼んで願をかけている」という妄想を具体化して想像することによって、バカバカしさが引き立ちます。

おいおい、と。

どこの暇人がそんなことにお金と労力を使うのか、と。

そもそもこんな仕事引き受けるやつは本当におるんか、と。

いろいろと突っ込みたくなってくる味のある一コマです。

薬入り願飛ばしマシン

そうかと思えば、願を飛ばすのはやっぱり拝み屋じゃなくて機械なんだそうです。

しかも機械には薬が入っていて「きついきつい」のだとか。

張田「うちも機械入れましたんで 今月から 御祈祷のほうは もうよろしいわ」

拝み屋「ふ~んマ、近頃はなんでも機械やけど そやけど「願」はうちらが拝むのが一番やと思いますで」

願かけの機械化の波(妄想)

(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第九話)

本人はいたってマジメなんですけど、その妄想を具体化するとこんなことになっちゃうんですよね。

「今月から」とか「近頃はなんでも機械やけど」なんて、リアルなやりとりですごくイイ!。

バカみたいな妄想がそれっぽく聞こえます。

このような場面を、マンガ的・動的な表現でなく、絵画的・静的な一コマでパツンと表現しているのがまたすごくキレがよくて好きだなぁ。

高齢者住宅の職員は忙しい

精Gの妻とも折り合いが悪くなったためか、母は民間の高齢者住宅に入ることになりました。

やっぱりそこでも妄想は炸裂して、「職員がベッドに薬を塗るので体調が悪い」とか言い出す始末。

介護の現場は、めちゃ忙しいはずなんですがそんなことをやっているゆとりはあるのでしょうか…?

ベッドに毒薬を塗る職員(妄想)

(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第二十話)

お医者さんまででてきて懇切丁寧に指導しています。

いや~、ここの施設は実に熱心だ…ってなるかい!!

なんなんですかね~。

ちっともリアルな設定じゃないのに、ディティールはすごくリアルっていうのはファンタジーとか創るときの要点なんだと思いますが、その手法なんでしょうか。

笑かしてくれます。

母の精神に巣食ったもの

ま、第三者の距離感で妄想が面白いのは結構なんですが、私は母の精神に巣食うものが気がかりでしょうがありません。

認知症うんぬん以前に、「死」がリアルに感じられる世代まで達した人間が、自分の人生を振り返った時に納得がいってないことが根源なのでしょう。

もっと評価されたかった。もっと愛されたかった。

人生、こんなはずじゃなかった。

根本的なところで自尊心の獲得やアイデンティティの確立に、最後まで失敗してしまった人間の末路がこれなんです。

つい、考えるんじゃないですかね。先が見えてきたときに。

「え? 人生、こんなもんで終わりなの?」

「うそ?」

「このまんまなにも面白いことがなく死ぬの?」

「それで全部終わり?」

そういうことに思いが至って、ゾッとする。もしくは冷ややかな感覚が無意識に流れ込む。

焦燥が精神を焦がし、あるがままの自分の人生を受け入れることを拒否させる。

そして、受け入れがたい事実を否定せんがために、

「自分はもっと価値がある人間である」

「自分はもっと評価されるべき人間である」

「自分はもっと幸せになる資格がある」

といった類の情念が作用して、自分の思い込み通りに扱ってくれない社会や周囲の人間に対し、憎悪をまき散らかすことになるんじゃないでしょうか。

落ち着くところは、妬み・嫉み・恨みですよ。

母も楽しくて父を中傷するのではない。心の中に巣食った憎悪が妄想によって得体の知れぬ怪物に成長した。恨めば恨むほど肥え太っていく怪物が母をあやつっている。

母に巣食った憎悪

(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第十五話)

まとめ

精Gと母の物語、いかがでしたか?

よく「10代のリアル」って単語が誌面をかざったりしますが、この作品ではため息がでるような「50代のリアル」が赤裸々に描かれています。

妄想のきつい母とのちょっと不愉快な日常と50男。

ここまでやることでしかえぐり出せない"リアリティ"があるんですわ。やっぱり。

「こんなマンガもあるのか・・・」と日本マンガ界の懐の深さに驚きました。

ラストシーンは、まともだった頃の母との優しい思い出をふと振り返る、いわゆる「良いシーン」なんです。

が、その導入部分が…もう、ね。日常感まるだし。

感動させる気がない。

面白いです!

それでは、また!

1巻完結!

※2017/3/1時点で、残り1冊しかありませんでした。売り切れてたらごめんなさい。電子書籍もでてなくて…。

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