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『少年時代』実は過酷なバイオレンス空間「小学校」!子どもが年長時から読んで備えるべし

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著者:吉原さん

今回は藤子不二夫Ⓐ先生による『少年時代』のご紹介です。

柏原兵三『長い道』(小説)を原作とした作品で、映画化もされています。映画で使われた主題歌の井上陽水『少年時代』はあまりにも有名ですよね。

さて。

本作は戦時中に東京から富山へ疎開した、小学5年生の進一を主役とした物語です。

戦争当時の日本の田舎の風景、文化、風俗。

そして現代にも通じる"小学校"という閉鎖空間の中での、逃げ場のない人間関係を見事に描き出しています。

漢字にはすべて「ふりがな」がふられてますので、小さな子どもでも通読可能。

ぜひ年長から小学生くらいの子どもたちにおすすめします。特に男の子。

「小学校」とは、ゆめゆめ「友達100人できるかな♪」の世界でないことだけは親ともども自覚が必要です。

それでは、よろしくお願いいたします!

「小学校」という原始的な政治空間

前提として。

小学校というのは実は『北斗の拳』ばりに暴力と恐怖が支配するバイオレンス空間だったりすることも珍しくないんですが、案外そういうことに気がついていない親御さんもいらっしゃいます。

(進一)

ぼくは がまんできずに泣いた! いたくて泣いたんじゃない みんなの前ではずかしめをうけたことがくやしくて泣いたのだ!

『少年時代』のいじめ

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』夏の章)

え?

そんなものは一部の荒れている小学校だけですって?

いえいえ。

程度問題はありますが、人間の本質はそうそう変わるものではありません。特定の環境要因がそろえばどこででも似たようなことが起こるんです。

閉じた空間であること

まず「小学校」という閉じた世界は、親や先生といったいわゆる「警察的存在」の介入は限定的であり、またその「110番」をおこなった人間は「チクった」とされてイジメの対象となります。

今の時代はネットが発達していますから、子どもたちの世界を監視することはより難しくなっているであろうことは随分前から言われています。

つまり子どもたちは、子どもたち同士の「閉じた社会空間」「閉じたルール」に自分で適応していかなければなりません。親は介在できないのです。

(ノボル)

それみろ! タケシがシゲルみたいもんなぐるもんか!

そういやシゲルは さっき ころんで顔を ぶっつけたというとったよ!

『少年時代』のいじめ2

(シゲル)

あ あの~~ 階段でころんだんす・・・・

『少年時代』のいじめ3

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』秋の章)

上記のようなことが起こっても、責任を取りたくない先生は見て見ぬふりってなもんですよ。

・・・・いや~、しかし。いいですねぇ。このタケシの一番の子分「ノボル」の三下っぽい雰囲気。自分ひとりでは戦えないくせに他人を見下すという、私が一番嫌いなタイプ。

こういうクラスに一人はいるようなリアルなキャラ造形が臨場感を持たせてくれます。

育てられた環境の差が大きいこと

この時分の子どもたちはやはりなんといっても親の影響、もしくは育てられた環境の影響の差が大きいです。

極端な話、蝶よ花よと育てられた子も、殴られてストレスのはけ口にされながら育てられた子も一緒の空間に放り込まれるわけです。

また親同士の関係・職業・経済力などが子ども同士の関係に持ち込まれる場合もあり、子ども社会もなかなかに複雑な様相を呈します。

未熟であること

小学生は未熟であるが故に簡単に暴力を行使します。

また小学生なりの政治的手段を駆使し、支配体制を築くこともあります。

「スクールカースト」という言葉もすでに耳になじみがありますし、ゴールディング『蠅の王』もそんな話でしたね。

様々な形をとりますが、人と人とがいる場所には権力が生まれ、"支配する側"と"支配される側"が発生します。

未熟であるがゆえに、お互いを尊重し合うことができません。

出来上がるのは自然と一方的な関係のみとなります。

(進一)

ぼくは いつのまにか あれほど うらめしく思っていたタケシに 愛想よく 話をしている自分に気がついた!

『少年時代』支配されるということ

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』秋の章)

未熟と言うよりも根源的というべきなのかもしれませんが、法も良識も宗教もないところで自分たちを縛るのは自分たちのルールだけ。

この物語、『少年時代』のタケシのように強烈な個性を持った支配的な人物が君臨すると、やはり独裁が生まれるのです。

独裁者タケシ

『少年時代』独裁者タケシ

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』再び夏の章)

この迫力あるタケシの表情を見るだけでも『ドラえもん』の世界観とはまったく違うことが伝わるでしょう。

いわゆるガキ大将というのでしょうか。

腕っぷしが強く、頭もよい。

同級生はすべて彼の言いなりであり、大人には良い顔をして裏の顔は悟られない。

支配の手綱を緩めることなく、アメとムチを駆使する。

気に入らないことをすれば理不尽な制裁を受けるが、貢物を持ってくる人間は特別扱いする(一時的)。

取り巻きを近くに置くが、その何者も信じずに密告体制を敷く。

心が通い合ったかのように思うこともあれば、手ひどい扱いを受けてその考えを覆される。

では一方的な暴君かと問われると、彼なりの筋は通して、親分肌な面倒見の良さも見せる。

私なんかは単純な人間なので、彼の複雑な人間性は少々理解を超えています。

なぜ、そんな強い意図をもって他者を支配したがるのか。本人も気の休まることはないでしょうに…。

(タケシ)

ノボルは おらの座をねらって 今までなんども 反乱を おこそうとしてたんや!

もっとも あいつは 一人じゃそんなことはやれない! かならず だれかをたきつけて仲間をつくるんだ!

『少年時代』タケシの支配体制

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』春の章)

タケシは力まかせに支配するだけでなく、正確な人物判定や状況判断もおこなった上で恐怖政治を続けていました。

周囲にスキを見せないタケシの天下はこれからも続くと思われていたその時、状況は徐々に覆されていきます。

栄光の落日

不満が噴出してはそれを常に力で抑えつけてきたタケシの支配体制も、ついに終わりを告げる日が近づいてきます。

土地持ちの息子・ケンスケが病気から復学することがそのきっかけとなり、徐々にケンスケ派が台頭していくことに。

ケンスケは皆の不満を上手に集合させて政権を転覆させることを狙います。

(ケンスケ)

タケシののっかっているのは砂上の楼閣さ!

下の方からすこしずつつっついていけば そのうちくずれおちてしまうぜ!

『少年時代』タケシの支配体制2

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』再び夏の章)

ケンスケ自身はケンカが強いわけではなく、むしろ身体は弱い方のようなのですがそこは由緒正しい地方豪族の末裔。

人間をコントロールするすべを親から受け継いでいるのかもしれません。

不屈の精神でタケシと敵対を続けるとともに、着実に味方を増やして「機」を見計らっていました。

そしてその時は訪れます。野外実習中に担任の先生が姿を消した際、ことは起こりました。

タケシは子分も含むクラスメートのほぼ全員によるリンチを受け、あえなく権威は失墜してしまいます。

(進一)

ついにタケシがたおされた!

もうこれでタケシは二度と権力の座へもどれないだろう!

もうぼくもタケシの顔色をうかがっておびえることもなくなるだろう!

まちにまった自由の日がきたのだ!

だがなぜか ぼくはむしょうに悲しかった・・・・!

『少年時代』タケシの支配体制の崩壊

(中央公論社/藤子不二夫Ⓐ『少年時代』再び夏の章)

進一が無性に悲しかったのはなぜでしょうか?

それは彼が、唯一タケシと対等な友人になりたいと思い続けていたからです。

タケシの強さ・賢さ、そして確かに根底に流れていた「優しさ」を、進一は感じ取っていたからに他なりません。

終戦を迎え、進一は東京に帰ることになります。

その時に、はじめて進一はタケシとの間に本当の意味での友情が芽生えたことを知るのでした。

タケシもまた「異邦人」である進一に心を開いていたのです。

独裁による恐怖政治を維持することは彼自身をも縛っていたのは間違いありません。人間はそんなに強くなく、まして彼はまだ11才。自縄自縛で、気が休まることはなかったでしょう。「突出した人間の孤独」ですね。

進一は戦争が終われば東京へ帰る「客人」であったからこそ、心を打ち明けやすかった部分もあると思います。もちろん進一自身のパーソナリティに敬意があった上での話です。

そして。

二人を遠ざけていた、タケシによる「支配体制」が終わることで、やっと対等な友人関係を築けるはずでしたが「戦争」が終わったことで今度は物理的に離れ離れになってしまいます。

形は違えど、2つの「体制の敗北」が友情のはじまりとおわりを告げ、この物語の終結になんとも言えない余韻を与えています。

まとめ

言ってしまえば、この世のどこもかしこもサル山だらけなんです。

サル山のボスの座を争って、日夜戦いが繰り広げられてつわものどもが夢のあと。

順位制ですよ。ペックオーダーですよ。

小学校という原始的な空間では、暴力によってそれが如実に示されることもしばしば。

我が子が大きく育って、やれ入学式だやれランドセルだと浮かれることも、それはそれで大事だと思います。

大いに一緒に喜びましょう。

ですが、親は我が子が社会の洗礼を浴びる入口にたったことを自覚すべきであり、また子どもにも自覚させるべきです。

そこで、藤子不二夫Ⓐ『少年時代』。

本当におすすめです。

散々おどしてきましたが、実際はクラスにいるメンバーによって随分その生活は変わると思いますが、こういった本を読んで想定して備えることが肝要です。

やっぱりね、「友達100人できるかな♪」の世界観を想像して、壮絶な階級社会に足を踏み入れたのだと知ったら、誰でも死ぬほどビビりますって。

こういう作品を読ませるのも、親心だと思います。

遅かれ早かれこういう世界に突入していくんですから。

次回は

さて、子ども社会の壮絶さばかりで1記事になってしまいましたが、戦争当時の日本の田舎の風景、文化、風俗を感じる上でも非常に価値のある本です。

特に現代の子どもたちには想像しにくい世界観が広がっておりますので、そういった意味でも子どもにおすすめですね。

夏が過ぎ風あざむ、いわゆる井上陽水『少年時代』のイメージの世界です。

次回は、その辺りのことを書こうと思います。

それでは、また!

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