『足利アナーキー』抗争勝利条件の解説からみる人間心理への言及

マンガ書評

著者:吉原三等兵(@Twitter

今回は、『足利アナーキー』における喧嘩の技術、抗争のお作法をご紹介します。

あっ!ちょっと待って。

「興味がない」と思った人ももう少しだけお付き合い願えませんか??

内容的には多分に人間心理に踏み込んだものもあり、暴力になんの興味を持っていない人たちにも、価値を提供できる作品として成立しているはずです。

つまるところ、こういうのって必然的に心理学に片足突っ込むことになるんで、「人間とはなにか?」の一端に行き着くんですよね。

それでは、よろしくお願いします!

吉沢先生の特異性

一般的にバトルものケンカもの格闘ものって、「怒ったから強い」「強い技だから強い」という表現が多い。

それを画力や演出でなんとなくすごく見せてしまうことも多々。

毎回それやられると正直冷めることもあるんですが、そこをちゃんと人間心理や技術論として描いています。

これは、なかなかできることじゃない。

格闘技を習った人、格闘技の大会にでた人がリアルな格闘マンガを描くことはできます。

「だりぃ」とか「先公うぜぇ」とか言っていたマイルドヤンキーがリアルな不良の日常マンガを描くこともできます。

でも、ガチガチの抗争体験を持った人に抗争マンガを描いてもらうっていうのは非常に難しい。

普通に考えていないでしょ?

抗争の経験値があって、マンガが描けて、話作れる人って。

しかし、一人だけいたんです!!

吉沢潤一先生がね。

それでは、本題の抗争技術に入りたいと思います。

「多数」対「少数」

作者によれば、この平成という時代で「タイマン」と呼ばれるような喧嘩はまったく見られなくなったそうです。

いわく。

「多数」対「少数」

「少数」対「少数」

「少数」対「一人」

が99%。

では、「少数」が「多数」に勝つための秘訣とはなんでしょうか?

多数派の特徴

まず多数の特徴

・全員の緊張レベルが低い

・個々の度胸が低い

吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #5「抗争①」/秋田書店

大勢でいるとその安心感から勝てると錯覚してしまうことが、最大の弱点であることが指摘されています。

要は全員が必死でない状況が慢心につながるということ。

また自分たちが圧倒的に有利な状況は、一度自分たちの側が窮地に陥り始めると逆作用をはじめます。

「集団」とは、恐怖が伝染する付和雷同的な性格を帯びてしまう、ということなんでしょうね。

これは抗争でなくとも日常的な場面でも想像可能なものです。あなたにもいくつか場面が思い浮かびませんか?

端的に言えば、集団が肥大化すると「主体性」が失われていくんですよ。

大企業とベンチャー企業の違いみたいなもんです。

少数派の特徴

次に少数の特徴

・全員の緊張レベルが高い

・個々の度胸がある

吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #5「抗争①」/秋田書店

吉沢潤一先生はこう続けます。

手の一つや二つ、足の一つや二つ、目の一つや二つ、命の一つや二つを覚悟して欲しい。

そして、その緊張レベルの高さや少数派であることのプレッシャー、ストレスは絶大、天国地獄、奇奇怪怪、地球最後!!!!なのだ、と。

この辺の表現も素晴らしいですね。手、足、目、そして命、と段階を踏んで意識の中のストレスレベルを上げていっているのが伝わります。

「目の一つや二つ」と言われるあたりからゾッとしませんか?

これは、ただ事じゃねー、と。

また「奇奇怪怪」だの「地球最後」だのはかなり個性的な言語表現ですが、それほどの言葉を用いないとその圧倒的な緊張とそれが生み出す究極の集中力を表現できないのでしょう。

要はアドレナリン全開ってことです。

地球最後!!!!

『足利アナーキー』地球最後
吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #5「抗争①」/秋田書店

あれです。『HUNTER☓HUNTER』のゴンさんと一緒です。

(ゴン)

もう これで

終わってもいい だから ありったけを

『HUNTER×HUNTER』ゴンさん1
冨樫義博『HUNTER☓HUNTER』29巻 No.305「残念」/集英社

見てわかるとおり「常ならぬ精神状態」でなければ、ギリギリの喧嘩なんかできないってこと。喧嘩はただ事、笑いごとではない。

教室じゃないところで行われる喧嘩を一回でもやったこと、見たことのある方は少しでも想像がつくのではないでしょうか。

少数派の勝利条件

「戦いは数だよ 兄貴!」

とは、『機動戦士ガンダム』のドズル・ザビ中将のセリフですが、それはとても正しい話であって。

ハンニバルとかカエサルとかアンタッチャブルな人は別ですが、基本的に数が多い方が勝つんです。

▶【こんなマンガが読みたい】本格古代ローマ戦記『ハンニバル戦争』(仮題)①/ヨシハライブラリ

▶【こんなマンガが読みたい】本格古代ローマ戦記『ハンニバル戦争』(仮題)②/ヨシハライブラリ

しかし、圧倒的に不利なはずの少数派の勝利条件とは何か?

それを見ていきましょう。

半数or猛者の撃退

少数派の勝利のためには、敵を絞って先手を取り、半数もしくは組織内の猛者の撃退が必須とされます。

相手の出鼻をくじくことができるような「目立つ相手」を選んで、圧倒的に撃退することで少数派にも関わらず、「場」をリードするということですね。

そして、状況を読んで猛者を見つけ、それを叩く。

そして カザマサは見逃さなかった

あの光景を見てリアクションがなく…

なお相手の動きを伺う者…

これが群れの猛者

『足利アナーキー』猛者の発見
吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #6「抗争②」/秋田書店

私はこの猛者の絵、好きですね~。伝わるかなぁ。すごく「リアリティ」を感じるんですよ。

ヤバい、表情。

強そうっていうのは体格や佇まいからわかるんですが、やっぱり表情に注目したいと思います。

勝敗の 根源

『足利アナーキー』猛者の表情
吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #6「抗争②」/秋田書店

もう直感でヤバいってわかる。

妙に表情に色がないというか、目に生気がない、というか。

そのくせネットリと絡みつくような視線。普通の感覚からすればこれは「異様」なんです。

引きこもって家で一人でゲームやってるわけじゃないですからね。

目の前で血しぶき舞う抗争が行われている最中の顔ですよ?

”暴力”に慣れすぎてて感覚がおかしい。この「中身が読み取れない表情」のまんまで人を思い切りぶん殴れる種類の人間だということも容易に予測できます。

こういう場合、ついついわかりやすい悪人っぽいキャラを描いちゃいそうですけどね。

これをサラッと描けるあたりに高い経験値を感じるんです。

最高じゃないですか。半開きの口が醸し出すリアリティ。

クオリティ高いわー。

仲間を助けない

・動きの基本はストップ&ダッシュ

・殴られてもいいから、倒されない、壁に背を向けない

・声をはる人間は必要不可欠

などなど、少数派が勝つためのいくつかの条件が示されますが、その中でも「勝利条件」と言ってもいい勝敗を左右するファクターがあるそうです。

それは、仲間を助けないこと。

仲間を助けてはいけない!!

吉沢潤一『足利アナーキー』2巻 #6「抗争②」/秋田書店

これも普通の不良マンガと比べるとちょっと意外な感じ。

「仲間」とか「絆」とか好きじゃないですか。

仲間を助けない理由は、少しでも相手にプレッシャーや嫌悪感を持ってもらうため。そもそもそんな余裕もない、とのこと。

こうもハッキリ断言されると気持ちがいいものです。

『ジョジョの奇妙な冒険』のアブドゥルが言った「お前たちを助けない」というセリフをきっちり実行するってことですね。

少なくとも「絆で繋がったヤンキーの友情物語を描く気はサラサラねぇんだな。」と思いました。

マイルドヤンキーならぬ、ストロングヤンキーです。

『足利アナーキー』抗争勝利条件の解説からみる人間心理への言及・まとめ

と、いうことで『足利アナーキー』における少数派の抗争勝利条件をご紹介させていただきました。

エンタメとしての暴力でも、格闘技的な技術論の解説でもないことがまったく新しく、不良マンガに新風を吹き込んだと言えます。

これを描けるのは世界に唯一人、吉沢潤一先生だけ。

「強い!」とか「最強!」とか「カッコイイ!」とかそういう価値観に侵されない、人間そのものへの視線、視点を感じる作品です。それを「暴力」というジャンルで行うことが非常に希少性が高いんですよ。

それでは、また!

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▶『足利アナーキー』不良マンガの新境地!喧嘩の肌感覚あふれる意欲作/ヨシハライブラリ

▶『足利アナーキー』生きる意味を問う哲学的不良マンガ/ヨシハライブラリ

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「最強の格闘技はなにか?」を問う夢のドリームマッチトーナメント『喧嘩稼業』(及びその前作となるややギャグ要素の多い『喧嘩商売』)と作者の真摯な心が伝わってくる路上格闘マンガの『ホーリーランド』をおすすめしておきます。

木多康昭『喧嘩商売』『喧嘩稼業』

『喧嘩商売』は、「平常運転の木多康昭」という趣で、まじめに喧嘩している回と完全に下ネタ回とが分かれています。

最終的に「最強の格闘技」を決めるためのトーナメントをする気があるのだと思わせる内容ですが、このペースだといつトーナメントに入るのかと心配していました。

で、実際にトーナメントに入ってからが『喧嘩稼業』であり、今度はグッと下ネタが減って格闘と騙し合い(本番前の仕込み)が中心となります。

因縁のある相手を集めて試合をさせるというのは、『シグルイ』の原作である南條範夫『駿河城御前試合』を参考にしてるかな?と思わなくもない設定ですね。

一部の例外を除いて、ほぼ全員身長180㎝以上・体重100㎏以上はありそうなところがイイ。

やっぱり基本はフィジカルですよ。

「技術が最も大事だが、その技術を成立させるために必要なフィジカルがある」みたいなことは大谷選手も言うてましたわ。

エンターテイメントとして大変面白く、木多先生らしいセリフまわしも最高ですね。

森恒二『ホーリーランド』

いじめられっ子が自宅でトレーニングして、路上での喧嘩に巻き込まれ、いつしか「不良狩り」と呼ばれるようになり…、という物語。

作者の方も路上格闘していたそうです(噂で凄く体格の良い方だと聞きました)。

とにかく作者が子供たちに伝えたい想いがこもっているのが見て取れる作品で、私はそういう作品はほぼ無条件に好きです。