『ドラえもん』夢を追うジャイ子に学ぶ志の高さと折れない心

マンガ書評

著者:吉原三等兵(@Twitter

『ドラえもん』の中で紹介したい良エピソードは多いんですが、ジャイアンの妹・ジャイ子がこんなにもマンガに対して高潔で折れない心を持った人物だったことを知らなかったので、ぜひ紹介したいと思います。

このエピソードは藤子・F・不二雄先生からの、マンガ家やその他の将来への希望や不安を持った人たちへのエールではないでしょうか。

ジャイアンの兄弟愛も含めて、短い中に見どころの多い一本です。

それでは、よろしくお願いします!

「あたしには才能がないのよ」

マンガ家を目指すジャイ子が縁側で涙を流しながらこう言います。

(ジャイ子)

まんがをやめようかと思うの。

あたしには才能がないのよ。

(ジャイアン)

弱虫!!

百回や二百回の落選でくじけるな!!

お兄ちゃんがついてるぞ。

ジャイ子「あたしには才能がないのよ」
(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

実際に何回くらい投稿しているのかわかりませんが、百回とか二百回とか言ってるあたりから考えると、少なくとも数十回は投稿しているんでしょうね。

10代にすら達していないにもかかわらず、相当な「量」

マンガを描く才能の有無は別の話にして、「まんがを描く」こと自体は大好きでしかたがないことがわかります。

ちょっと別な話。

ソースがハッキリしていなくて申し訳ないのですが、プロ野球のイチロー選手が「自分が一番野球の才能があると思ったことはないが、自分が一番野球を好きな自信がある」といった趣旨の発言をしたと記憶しています。

「好き」は才能の一部だという一例です。

また木尾士目『げんしけん』の中で、「マンガの生産力」をもってして「プロになれる」と評していました。その意味でジャイ子は十分プロでやっていける重要な才能の一つを、すでに備えていると言えます。

「あたしのかきたかったまんがは、こんなものじゃない」

ジャイアンはドラえもんの「すりこみ製本機」を使って既刊の様々な雑誌にジャイ子の作品を掲載しました。実はこっそりジャイアンが投稿していたということにして、「ついにおまえの才能が、花開いたのだ。」とジャイ子を励まします。

(掲載された作品は『日出処は天気』『ペロペロキャンディキャンディ』など、どこか聞いたことがあるような作品ばかりなのですが・・・。)

それでも、ドラえもんとのび太の協力を得てウソにウソを重ね、ついにすっかり真に受けたジャイ子は「原稿料が入ったら、お城みたいな家をたてようね」と夢が広がります。

ことここに至ったところで「そこまでめんどうみられるか!!」とタケコプターで逃げ出すドラえもんとのび太。ここまでやっておいて、それも結構ひどいですが。

ジャイアンは「おれ、うちへ帰れないよ」と泣きじゃくります。ジャイ子に対して「ついてはいけない種類のウソ」をついている自覚はあったんですね。

一方そのころ。

一人静かにあらためて自分の作品をながめていたジャイ子は、「自分で」ある重大なことに気がつきます。

(ジャイ子)

おちついて、よくよくみると・・・・・・。

よくこんなまんがが、雑誌にのったものだと思うわ。

ジャイ子「よくこんなまんがが、雑誌にのったものだと思うわ」
(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

そのことに気づいた時の表情は、まるで恐ろしいものでも見てしまった時のように、ゾッとした顔。

事実、それはひとりのクリエイターとして「恐ろしいもの」だったのでしょう。

(ジャイ子)

どれもこれも、プロのまねじゃないの。

あたしのかきたかったまんがは、こんなものじゃないんだわ

ジャイ子「あたしのかきたかったまんがは、こんなものじゃないんだわ」
(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

と、ジャイ子は続けます。いやー、このセリフに完全にやられました。

10歳にも満たない少女がこんなセリフを吐くとは・・・。

実際には「流行っているから」とか安直な理由で他のマンガ家をパクるのはよくあることで、またそれで成立する作品も一定数あるんですね。

ことさらに否定する気までは起きないのですが、やはり「まんが道」を歩みはじめた最初の一歩は「かきたかったまんが」を描くことに挑戦してもらいたいと強く思います。絵が下手であれなんであれ、そういう作品が読みたいんですよ。

自分がメディチ家みたいな大金持ちだったら、いくらでもこんな作家のパトロンになるんですけどね。

「これで目がさめたわ」

真摯なジャイ子は「読者はどうみているか、ぜひ、生の声をききたいわ」と町へでます。

たまたまスネ夫に出会ってたずねたところ、

「ひっでえまんが!!」「へたくそ」「シッチャカメッチャカ」「はじしらず」とボロクソ。

(スネ夫)

へたくそで シッチャカメッチャカで、よくもこんなはじしらず………。

どしたの?

スネ夫「へたくそでシッチャカメッチャカで、よくもこんな恥知らず」
(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

その時のジャイ子は今までにみたことのない表情です。

(パイロン?)

その後、この話の中では一切ジャイ子の表情はでてこず、後ろ姿と電話でのしゃべり声だけ。

自分でわかってはいても、眼前での読者の率直な意見は、耳に、心に、痛いほど突き刺さったのは言うまでもないですよね。

藤子・F・不二雄先生も「顔」を描けなかったんでしょう。いや、描かないことがマナーだと思ったのかもしれません。こんな時のクリエイターの顔をみるべきではないと思います。

(ジャイ子)

はっきりいってくれてよかった。

これで目がさめたわ。

ジャイ子「これで目が覚めたわ」
(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

とジャイ子はその場を立ち去ります。

私はジャイ子がマンガの道をあきらめるのだと思いました。

「第一歩から、勉強し直します」

しかし、次のコマでジャイ子はマンガの道をあきらめていなかったことが分かります。

編集部あてに電話をかけ(実際はジャイアンにつながる)、

(ジャイ子)

あんな作品で、原稿料なんかいただけません

第一歩から勉強し直します。あれはなかったことにしてくださいね。

(藤子・F・不二雄『ドラえもん』29巻「まんが家ジャイ子先生」/小学館)

と、告げます。

折れない。ジャイ子の心は折れないんです。

お金が欲しくないわけではないはずです。お城みたいな豪邸を建てたいと思っていたのですから。

しかし、自らそんなものをフイにしても、作家としてのプライド・志の高さが金銭の受け取りを拒否させたのですね。

プライドで飯は食えないかもしれませんが、得てしてこのようなところで信頼を築いていくことこそが、結果的に成功への近道だったということもあるはずです。

そして、現状をよく知ったそこからは、這い上がるのみ。当初気にしていた、才能の有無はもうジャイ子の言葉の中にはでてきません。

そんなこととは関係なく、「かきたかったまんが」を描くために一から勉強をし直し、地道に積み上げていこうとするジャイ子に、グッときます。

たった12Pでサラッと描いていますが、

「才能を言い訳にしてはいけない」

「なんのために描くのか」

ということにせまるストロングで硬質なテーマでした。

ジャイアンは「えらいぞ、ジャイ子・・・。」と泣いていましたが、わたしも自分の子どもがこんなこと言ったら泣くと思います。

『ドラえもん』夢を追うジャイ子に学ぶ志の高さと折れない心・まとめ

学校の勉強でも、部活動でも、仕事でも、忘れないように心のそばに置いておきたい考え方です。

才能のせいにしない。現状をしっかりと受け止め、それでも一歩一歩先へ歩いていく姿勢。

『ドラえもん』はこんなことも教えてくれるんですね。

それでは、また!

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