『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ①

マンガ書評

著者:吉原三等兵(@Twitter

正直、『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」については書こうかどうかしばらく迷ってました。

陽の当たる大通りである「少年ジャンプ」の中でもさらに注目度の高い『HUNTER×HUNTER』。

中でも最高の完成度を誇る「キメラアント編」。

それってこのサイトで扱うべき題材なのかな、と。

▶『ヒストリエ』細かすぎて伝わらないマンガ解説シリーズとか、まぁそういう性格のサイトじゃないですか、ここって。

要はインターネットの場末の飲み屋みたいなところで「少年ジャンプ」「冨樫義博」っていう超メジャー級の題材もどうなのよ…と。

しかし、隠者ぶったところで『HUNTER×HUNTER』が面白いのは隠せない事実ですし、無視できないところまで到達しちゃった「少年マンガ」だと思うので、いまさらですが『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」について、やはり自分なりに書いておくことにしました。

「少年マンガ」の最終解(ファイナルアンサー)のひとつであるということは断言できる内容だと思いますし、私の中での「少年マンガ」「バトルもの」でやるべきだったことをすべてやってしまったマンガであり、ある意味で「少年マンガ」を終わらせてしまったマンガなのかな、と思っています。

※もちろん少年マンガは終わらないし、他の作品をdisる意図では言っていません。「少年マンガ」はどこにたどり着くのか、ということを突き詰めた先の「終わり方」の一つ、と受け取ってください。

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ①/ヨシハライブラリ←今ここ

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ②/ヨシハライブラリ

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ③/ヨシハライブラリ

それでは、よろしくお願いします!

論点の絞り込み:仙水と樹のその先へ

なーーんてこと言いながらも、のっけから愚痴ってしまうようで大変申し訳ないのですが…。

語るの難しいんですよねぇ。「キメラアント編」。

キリスト教的モチーフがちりばめられていることなど論考しなきゃならないことが多いし、また複合的なんですよ。

先に挙げた『ヒストリエ』の記事のように細かいことを語り始めればとんでもなく長くなることは明白で、語りたいことを削ぎ落して論点をある程度整理というか絞り込まないと記事にならんというのがこの「キメラアント編」です。

とりあえずこの記事はタイトルでも挙げたように「仙水と樹のその先へ」という切り口から書いていこうと思います。

さて。

忘れた人もいるでしょうか。

知らない人もいるでしょうか。

「仙水(せんすい)と樹(いつき)」と言えば同じく冨樫義博先生の『幽☆遊☆白書』の登場人物。

そこまでさかのぼるのかよ…と思う方もいるでしょうが、「キメラアント編」はテーマ的に「仙水編」の別解(アナザーアンサー)と解釈するのが妥当ではないかと思っています。

さきほど「少年マンガを終わらせた」と言いましたが、私にとって一番最初に「少年マンガを終わらせた」作品は、実は『幽☆遊☆白書』における「仙水編」でした。

そして、二度目に終わらせたのが『HUNTER×HUNTER』の「キメラアント編」です。

『幽☆遊☆白書』仙水と樹

冨樫義博先生の『幽☆遊☆白書』が世に出てきたのが90年代初頭ですから、仙水と樹とは誰なのか、というところから話をはじめるべきなのでしょうね。

吉原三等兵

くそー。また長くなりそうだ。すべてを2000字くらいでシャレオツにスパッとまとめる書き手になってみたい。

「当時の小学生がマネしたことのある三大必殺技」と言えば

  1. 『ドラゴンボール』→かめはめ波
  2. 『ダイの大冒険』→アバンストラッシュ(掃除時間+ほうき)
  3. 『幽☆遊☆白書』→霊丸

であることに異論がある人は少ないでしょう。

『幽☆遊☆白書』は冨樫義博先生の出世作であり、当時一世を風靡しました。

「少年ジャンプ」に代表されるいわゆる「少年マンガ」「バトルもの」のヒットする要点をしっかりと抑えた作品で、『HUNTER×HUNTER』の下書きになっている部分もチラホラみかけます。

※なので、『HUNTER×HUNTER』を語るにはここから語らなければならないのです

この作品の敵のボスキャラの一人として「仙水(せんすい)」、その親友であり恋人のようなポジションに「樹(いつき)」という登場人物がいます。

無類の強さを誇り「正義の味方」を自認して、標的である妖怪を皆殺しにしていた仙水ですが、純粋で穢れを知らない新雪のような少年でもありました。

標的であった妖怪・樹に出会ったことをきっかけに彼は変わっていきます。

(樹)

オレは彼が傷つき汚れ堕ちていく様をただ見ていたかった

「キャベツ畑」や「コウノトリ」を信じている可愛い女のコに無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た快感さ

その点

人間の醜い部分を見続けた仙水の反応は実に理想的だったな

割り切ることも見ぬふりもできずに

ただ傷つき絶望していった

冨樫義博『幽☆遊☆白書』16巻 「魅きつける理由!!の巻」/集英社

(仙水)

世の中に善と悪があると信じていたんだ

戦争もいい国と悪い国が戦ってると思ってた

可愛いだろ?

だが違ってた

俺が護ろうとしてたものさえクズだった

冨樫義博『幽☆遊☆白書』17巻 「仙水の遺言!!の巻」/集英社

「無修正のポルノをつきつける時を想像するような下卑た快感」という表現だけでも1000字くらい語れそうですが、とりあえず抑えて次に進みます。

しかしこの話については後に具体的に「キメラアント編」を語る際に再度取り上げますので覚えておいてください。

主人公・浦飯幽助に敗れた後、仙水の遺体と魂魄(こんぱく)は樹によって異次元に連れ去られます。

(樹)

これからは二人で静かに時を過ごす

オレ達はもう飽きたんだ

お前らは また別の敵を見つけ戦い続けるがいい

冨樫義博『幽☆遊☆白書』17巻 「仙水の遺言!!の巻」/集英社

お前らは また別の敵を見つけ戦い続けるがいい

これが凄かった。

当時流行していた多くの少年マンガで何度も何度も繰り返された、売上げを維持する方法論。

倒したらもっと強い敵。倒したらもっと強い敵。倒したらもっと強い敵。

主人公ももっと強くなって。もっと強くなって。もっと強くなって…。

多くのヒット作が上述のいわゆる「インフレ」展開を繰り返す中で、確かに私も飽いていました。

虚しい。

だからどうしたというのだろう。

その。

中で。

たった一言で「少年マンガ」「バトルもの」の空虚さを喝破してしまった。

※マイナー作ではなく、メジャー作でこれが出てくるということがすごい。自らの歩みを否定したのだ!

そう、この瞬間、私の中で一度「少年マンガ」は死んだのです。

樹の言葉が作者本人の言葉であることは読んでいてすぐにわかりましたし、

「飽きたとか言っちゃうんだ…。こんなに正直な大人がいるのか…」

と子供心に感嘆したのを覚えています。

「仙水と樹」のたどり着いた場所

人間に絶望し。

修羅の妄執から逃れ、輪廻から解脱することを求めた仙水。

それに寄り添った樹。

人生の意味を地上では見つけられず、ただそこから逃れるために戦っていました。

この世界からの逃走

それが仙水らの答えだったわけです。

尾崎豊っぽいっちゃあ尾崎豊っぽいです。

こーの支配か ら の…

闘いか ら の…

『幽☆遊☆白書』がたどり着いた場所

作品そのものとしてはどのような解を示したのでしょうか。

『幽☆遊☆白書』の最終巻では、人間界の上層世界である霊界で内部告発があり、一縷の浄化が示されます。

仙水が忌み嫌った「腐った世界」がわずかばかりながら、澄んでいく未来。

※同時に主人公・浦飯が意図せず「腐った世界」へ加担していたことも読者に提示されます。

妖怪も人も同じ。本質的な違いなど無い。

社会は、世界は、悪くなったり、良くなったり、する。

その中で。

個人の生活の小さな幸せ(同時に個人そのものにとっては大きな幸せ)を見つけていく。

見つけていこうじゃないか。

そんな最終回だったと思っています。


これらの浦飯たちのアンサーと、仙水らのアンサー。

この辺りをしっかりと踏まえた上で、「キメラアント編」、語っていきたいと思います。

『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ①・まとめ

ひどい話だよね。

『HUNTER×HUNTER』の感想を書く、考察をするってぶち上げといて、一言も『HUNTER×HUNTER』の論評をしない奴っている?

ありえなくない?

『幽☆遊☆白書』の話しかしてないんですけど??

なにを言ってるかわからねーと思うが、俺も自分が何をしてるかわかんなかった。

これね。

恐ろしいのが奇をてらったことをやろうとしてるんじゃなくて、真面目にやってこんなことになってるってこと。

ごめんね。

ちゃんとつなげて書くつもりですので、続きも読んでみてください。

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ②/ヨシハライブラリ

いやー、マンガって本当に素晴らしいですね。

それでは、また!

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▶『HUNTER×HUNTER』能力バトルもので感じていた”違和感”を冨樫先生が払拭した件/ヨシハライブラリ

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ①/ヨシハライブラリ←今ここ

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ②/ヨシハライブラリ

▶『HUNTER×HUNTER』「少年マンガ」は二度死んだ。キメラアント編の感想・考察-仙水と樹のその先へ③/ヨシハライブラリ

あわせて読みたい

昔、映画の特典でのみ配布された『HUNTER×HUNTER』の0巻。こないだAmazonで見かけたら昔見たときよりだいぶん価格が下がってきてたので買いました。

皆さんも、読み忘れた方、買い忘れた方は購入してみては?

あと、この記事の中であつかった『幽☆遊☆白書』を紹介しておきます。

冨樫義博『HUNTER×HUNTER』0巻

クラピカの過去、"緋の眼"のクルタ族の件のエピソードが描かれます。

この「0巻」にはパイロという登場人物が出てきてるんですが、たぶん、この人物、暗黒大陸編でのあの人の部屋に登場し、あ、なんだ、こら、やめ………。

…ということで実際に読んで確認してみてください。

『HUNTER×HUNTER』はファンが多いからこの件に関しては検索すればすぐわかるだろうけど、なんでもかんでも検索してわかった気になるのって面白くなくないですか?

シルエットくらいの話ですが、たぶんわかると思います。

できれば自分で確認してみてください。

冨樫義博『幽☆遊☆白書』

戸愚呂編までは、まぁまぁ、はいはい、少年マンガかな、というところなのですが、仙水編や魔界トーナメント編の終わりなんかみると、やっぱり冨樫義博先生は洒脱だな、と思いますね。

いろんな少年マンガなどから取り入れている要素も多く、今読めば色んな気づきを持つ人も多そうです。

機会があったら読んでみていいと思いますね。