『精G 母と子の絆』①赤裸々っていうのはこういうことさ!認知症の母と50男の日常

「絆」…なのだろうか

著者:吉原さん(@yoshihara_san

アニメには「日常系」ってジャンルがあるらしいですね。

検索してみましたよ、「日常系」。

トップには、「癒され」「ほのぼの」等々とでてきました。

・・・。

・・。

・。

さて。

50代男性の「日常」とはなにか?

ここで、ひさうちみちお/『精G 母と子の絆』を紹介します。

エンタメ作品に漬かりきっている人は、軽くトンカチでこめかみを打たれるような衝撃をおぼえること間違いなし(笑)。

いろんな意味で「ここまで描くか…」とうなる作品です。

これぞ!

これぞある意味、誰も反論できないほどの“日常系”です!

それでは、よろしくお願いします!

赤裸々な50代の欲望

第一話は主人公である「精G」の紹介でまるまる一本です。

あ、ちなみに「精G」はあだ名ですね。本名は「精次」。

学生時代に同級生につけられたそうですが、『阿Q正伝』の阿Qっぽくて気に入ったそうです。

さて。

ある日、精Gはめまいがひどくなって医者に通うんですが、若い女医からの診察中にまぁろくなことを考えません。

年齢のわりには 「若い脳です」

と言われてホッとした とゆうより 褒められたように思えて嬉しかった

女医「年齢の割には若い脳です」
(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第一話)

まったく何が嬉しかったというのでしょうか。

一事が万事、病院に通っても考えるのはそんなことばかりで、医師の話などろくすっぽ頭に入ってません。

実際、医師の話を聞いていない患者って多いんだろうけど、こんなことばっかり考えてる人もいるんだなーと勉強になりました。

患者は病院では薬もらったり、検査したりすればいいって思ってるところも大きいのかもしれませんね。

その他、とても「男性的」な独白が続き、だいたいそんな話で精Gの紹介は終わりです。

作者は、読者にいったいどんな印象を持たせる気でまるまる一話をかけてこれを描いたのか。

それを考えると、興味深いです。

「どこにでもいる普通の50才の男」という風に解釈すればよろしいのでしょうか。

実際には読み手によってかなり印象が変わるでしょうが、いずれにしても「リアリティ」の高い描写であることは間違いないです。

ここまでやることで出てくるリアリティってあるんだな~」と感服しました。

赤裸々とはこういうことさ!

母の介護でもっとも辛いこと

そんなある日。

精Gは姉からの電話で、母が足の骨を折って入院したこと、そして認知症になったことを知ります。

認知症って大変なんですよ。

いくら完全看護の病院であっても、認知症の患者の完全看護は物理的に不可能で、家族がつきそうしかないんですね。

患者の安全と健康を守るため致し方なきところです。

午前・午後は父と姉。夜は精Gが、母につきそうことになりました。

つきそい自体はそんなに大変なことはなかったようですが、ひとつ精Gには辛いことがありました。

排尿の際に、母の股間が目に入ることです。

介護の話が中心だからか、この調子でたびたび美しくない話題がはさまれます。

読者の中には不快に感じる方もいるでしょうし、精Gの中に自分を見て気まずさを覚える方もいるのではないでしょうか。

しかし下世話であろうがなんであろうが、身もふたもないところまで描いてしまうのは、大衆的なるものの一類型として「精G」という人間を描ききろうとしているからにほかなりません。

母をひとりの人間として「視る」

作中、一貫して精Gが母をとらえる目線は客観的です。

子どもの頃はなかなかできないことですが、大人になってくるにつれて自然と自分の親を客観的に観れるようになりますよね。

精Gはすでに50才の男性なので当然のことと言えなくもないですが、いやいやなかなかの距離感です。

設定では職業がライターだということなので、そういうことも影響しているのでしょう。

以下、十一話より3コマご紹介します

民族差別、階級差別、職業差別、貧富差別。精Gの母は差別の宝庫だった。そんな母の人格は、精Gが感じる今の日本人のイメージと重なりあう

差別意識の強い精Gの母

子供の頃は親を頼り、嫁いでは夫を頼り、老いては子を頼る。精Gの母はついに自立することがなかった。戦前の封建教育がそのように母をつくったと彼は思う

依存心の強い精Gの母

精Gの母は封建教育によって非自立を学び戦後の市場経済による競争社会から利己主義を学んだ。彼には母が典型的な現代の日本女性に見える

利己主義の精Gの母
(青林工藝舎/ひさうちみちお『精G 母と子の絆』第十一話)

自分はここまでくもりなき眼(まなこ)で実母を視ることができるかと言われたら、ちょっと自信ないです。

こういう目線で親を視つつ、一緒に生活していくというのはどういう気分なんだろうなぁ…。

しかし、どうであれ精Gはただ受け入れて生活します。

それは「母と子の絆」があるから、なのでしょうか。

母と子の絆

ところで。

この作品には「母と子の絆」と副題がついていますが、ぶっちゃけて言うと全然そんな感じはしません。

「母と子の絆!」と感動したい人はたぶん目が点になります。

ドラマチックな脚本も演出もありません(必要もないけど)。

50のおじさん(と奥さん)と母とのストレスある生活があるだけですから。

しかし、精Gは文句を言いながらも一緒に暮らします。

こぼれた便も掃除します。

必要であればお金を払って民間の有料老人ホーム(高い!)にも入れます。

そんな親子として当たり前と言えば当たり前のことが、ごく普通におこなわれ続けていることこそが「母と子の絆」だと言えるのかもしれません。

・・・。

・・。

・。

…と、結び付けてはみたものの。

実のところ、なんでこの副題にしたのか私にはいまいちつかみきれませんでした。

あ~…でも「母と子の絆」とはなんなのか?を考えるための物語ととらえれば別に違和感ないのかな?

う~ん。一体どういう意味を持たせたかったのか、作者の知性が高すぎて判断つきかねる感じです。降参。

つづきます。

それでは、また!

1巻完結!

※2017/3/1時点で、残り1冊しかありませんでした。売り切れてたらごめんなさい。電子書籍もでてなくて…。

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