『砂の栄冠』もはやアイドル的存在。無能監督ガーソの魅力!

トップが暴走すると脱線必至

著者:吉原さん(@yoshihara_san

では、甲子園の手引に最適な『砂の栄冠』のご紹介の続きです。

前回は、高校野球の監督の特徴や、興行的な側面のご紹介もしましたが、今回はある意味この作品の”肝”。

自軍・樫野高校の監督、通称”ガーソ”をご紹介したいと思います。

いやね、単純に私が気に入ってるんですよ。

そして皮肉な意味で言えば、こんなに選手を伸ばしてくれる監督はいないかもしれません。

ふふふ。高校野球経験者でなくても必見です。

高校野球マンガの監督は、おおむね魅力的な信頼できるリーダーと相場が決まっているのですが、ガーソはその無能ぶりが群を抜いています。

はたしてあなたはその器の小さい指揮官ぶりにイライラするのか、次になにをやってくれるかドキドキするのかどちらでしょう?

(どちらにしても楽しめますよ!)

そして。そんな無能な監督でも、運が良ければ甲子園にいっちゃうこともあるそうです。

(滝本)

であれば監督の人間性とチームカラーは一緒になる

消極的で弱気な監督のとこは プレーに対し 臆病で思い切りが足りない

アホな監督のとこは 選手もアホやし野球もアホ

(七嶋)

滝本さん待ってください 甲子園にそんな監督のチームって出てくるんですか?

(滝本)

おるおる

ノリと勢いだけでたまたま勝ってきましたというチームが

『砂の栄冠』ダメな監督も多い
(講談社/三田紀房『砂の栄冠』1巻 第8話「転機」)

正直、「へ~、そんなものかなぁ」と草野球経験しかない門外漢は不思議に思いました。

てっきり甲子園なんかにいく監督は優秀な方ばっかりなものだと…。

が、よく考えたらどんな大企業でも変な人が出世してるケースって結構ありますね。

というか大企業に限らず、どこにでもいますね…、困った上司って。

既視感があるというか、良く言えば人間味があるというか…。

身近に感じられるキャラであることだけは保証します。

それでは、よろしくお願い致します!

特徴その1.実力がない

曽我部公俊監督(ガーソ)56歳

監督として甲子園に春1回 夏2回出場

効率の指導者としては有名だが 出場したのは15年以上前のこと

『砂の栄冠』有能そうなガーソ
(講談社/三田紀房『砂の栄冠』1巻 第8話「転機」)

“ガーソ”こと曽我部監督は埼玉県の公立・樫野高校の創立100周年の年にあわせて甲子園に出場するために招聘されました。

パッと見、優秀そうな経歴ですからそれも当然かもしれませんね。

ところがどっこい、これがたまたま前任者が鍛え上げたチームだったり、後にプロに行くような選手がいたチームだったりとたまたま運良く結果がついた時の成績なのだそう。

公立高校での指導者の名伯楽と見られていたわけですが、中身はこんなものです。

結果、学校側の全面的バックアップを受け、優秀な選手が揃っていたにもかかわらず、最後の最後で監督の采配ミスにより敗北しました。

「結果がすべて」とか思考停止のぬるいこと言ってるとこんな目に合うんですね。

特徴その2.リスクがとれない

七嶋はガーソを「リスクがとれない」と評しましたが、それはどういうことか?

具体的に言えばその采配に出てくるわけですが、例えば

  • 公式戦の先発はエース(どんなに疲労しても、全試合エース完投)
  • 常にベストメンバー(過去の実力の、ベストオーダー)
  • という風なことをやります。

    七嶋は「正攻法と言えば聞こえはいいが、負けた時の言い訳を用意しているだけ」とバッサリ。

    「俺はベストの布陣を敷いた」

    「やれることはやった」

    「あとは選手の力の差」

    と言い逃れの材料を用意して戦いに臨んでいる、と言い切ります。

    結果が良ければ自分の手柄ですが、悪くても自分は悪くないってことですね。

    思い切った手は打たない 腹を括って勝負はしない

    そのかわり 責任はとらない

    『砂の栄冠』責任はとりたくないガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』3巻 第27話「先攻」)

    野球の戦術的な采配ひとつひとつを取れば、「結果的に正解だった」というケースももちろんあるでしょう

    が、指揮官が常にこういう思考停止とも言うべきスタンスで勝負に挑んでいれば、思索の数や、洞察に大きな差が出て来るでしょう。

    長い目でみて、選手の成長や試合の勝敗にも大きく影響を及ぼしていくことは必至です。

    また、相手側の監督からしたらやりやすいことこの上ないでしょうね。いつもパターンが定型的なんだから、安心して戦えます。

    これも、我々のビジネスシーンで思い当たる場面があるはず。

    周囲の状況を一切顧みず、オーソドックスな手しか打たない(打てない)指揮官は責任を感じて欲しいものです。

    「俺は悪くない」じゃないんだよ。

    特徴その3.お前の手柄は俺のもの

    以下は埼玉大会準決勝・勝利のインタビューでの一幕。

    (ガーソ)

    「入学してからずっと つきっきりで指導してきましたから 私のイメージどおり順調に成長してくれています」

    (七嶋)

    「つきっきりって 誰が・・・・」

    『砂の栄冠』七嶋はわしが育てたガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』4巻 第33話「センバツ確定」)

    夏の大会が終り…。

    期待の世代、エース中村ら3年生が引退してからは、他所の高校に逃げるように異動しようとしていたことがウソのよう。

    本人に聞こえているのに、テレビカメラに向かってこんな言葉が吐ける面の皮の厚さは立派ですね。

    このシーンに限らず、基本的にこの監督は手柄は自分のもので、責任は自分以外の誰かです。

    むしろ、分かりやすくて清々しいくらい。

    でたーーっ!

    ガーソ得意の 必殺しらんぷり!

    『砂の栄冠』必殺しらんぷりガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』6巻 第49話「ガーソの必殺技」)

    特徴その4.ヘソを曲げると暴走

    この試合。

    あるプランを持って臨んでいた七嶋は、ガーソの指示と異なる投球を行います。

    指揮官とエースの信頼関係が無いばかりにこういうことが起きているわけですが、このこと自体は七嶋に対し批判的な目を向ける方もいらっしゃるでしょう。

    そうか・・・・

    内外角に球を散らせと指示されたのに

    インコース中心に攻めたから頭にきたんだ

    『砂の栄冠』懲罰交代ガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』5巻 第48話「名監督ガーソ」)

    が、しかし。

    ガーソがすごいのはここから!

    懲罰としてレギュラーの“キャッチャー”を1年生と交代させてしまいます。

    当の1年生からしたら、高校に入って初の公式戦。しかも関東大会。

    相手は名門「横浜高校」をモチーフにした強豪高校。

    加えて試合終盤の8回で1対1の同点という緊迫した試合状況。

    ひとつのバッテリーミスが即敗北につながるミスの許されない場面です。

    これはやはり褒められたリーダーシップとは言えないでしょう。

    チームの勝利よりも自分のメンツの方を優先しているわけです。

    いくら指示通り動かなかったとはいえ、戦うのは選手。

    彼らは現場感覚も総動員しながら、勝利を掴もうと必死にやっているわけです。

    そうやって全員一丸となっているところに、それを台無しにするような采配を振るうわけですからもはや完全に指揮官失格!

    会社組織でもこんなことやられちゃたまんないですよね。

    大口顧客との伸るか反るかの交渉の終盤、いきなり営業担当を社会人1年生と交代させるようなものです。

    こんなことやられたら名刺交換の手まで震えますわ…。

    東横の大渡監督が選手を替えるのを見て カッコいいと思って 自分もやってみたくなったんだ

    『砂の栄冠』憧れるガーソ

    そのわりには内心ドキドキで 目が泳いでるし

    『砂の栄冠』目が泳ぐガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』5巻 第48話「名監督ガーソ」)

    選手から見透かされてるのがまた情けないですね…。

    ………が、私はこの辺りから妙な愛嬌をガーソに感じはじめました。

    こう……、なんていうか小物っぷりが「堂に入っている」と思うんですよ!

    また、いろいろとコスプレ的表現にさらされるキャラでもあります。

    もう誰か・・・・

    こいつを縛り付けて動かないようにしてくれ!

    『砂の栄冠』動けぬ地蔵ガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』10巻 第90話「甲子園の神様達」)


    この暴走機関車 完全に脱線してとんでもない方向に走り出した!

    『砂の栄冠』暴走機関車ガーソ
    (講談社/三田紀房『砂の栄冠』10巻 第92話「自信」)

    クソ采配でイライラしているところに、コテコテな仮装的マンガ表現…。

    不思議と化学反応が起こって“愛されキャラ”に思えてくるところがガーソの味わい深いところです。

    作者が悪ノリしているというか、描いてて楽しそうなキャラですね。

    まとめ

    まだまだガーソの伝説は続くのですが、この辺りにしておきましょう。

    このマンガは、特に魅力的な仲間に囲まれているわけでもなく、優秀な監督に率いられているわけでもなく、ただただ現有戦力の中でいかに勝っていくか、という点にこだわり抜くところがストロングな魅力を放っているのです。

    大人たちからやらされるのではなく、自分たちで考えて動く。

    正攻法ではないやり方も含めていろんな対応をとる。

    その経験は、きっと社会に出てからも自分を支え続ける能力に昇華されていくはずです。

    そして、「有能ではないリーダーの元でパフォーマンスを求められる」これは高校野球の世界だけでなく、いろんな世界でありうること。

    敵だけではなく、内なる敵(ガーソ)との対応も求められる、主人公・七嶋の活躍にこうご期待!

    ほんと、近年の野球マンガの中でピカイチだと思います。

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