著者:吉原三等兵(@Twitter)
今回の記事では、藤子不二夫Ⓐ『少年時代』における昭和初期の「あるある」を見ていきながら、過ぎて行った時代に思いを馳せたいと思います。
私が子どもの頃は「戦後50年」と言われていて、まだあの頃を体験していた世代がたくさんいましたが、戦後70年ともなるといよいよもって少数です。まともに話を聞くことも難しくなってきました。
100年ともなれば完全に「過去の歴史」の話であり、そうなるとこの作品は歴史資料としての価値もますます上がっていくのでしょうね。
それでは、よろしくお願いします!
目次
ふんどし
(タケシ)
進一ーーーっ!!
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』夏の章/中央公論社)
ページをめくったときのインパクトが強かったんで、これを一番に持ってきました。
正直ちょっと美しさすら感じます。
うちの爺さんもふんどし使ってたらしいですが、もはや我々の生活から完全に姿を消しており「遺物」といっていいでしょう。
昔うちのおじさんがNHK大河ドラマにエキストラのひとりとして出演した際に、皆でふんどしを着けたそうです。
待機中にふんどしがズレてしまった人は自分一人ではもとに戻せなくて、衣装さんを呼ぶのだとか。
女性の衣装さんがかけつけるので恥ずかしかったそうです。
しかし。
言われてみれば、ふんどしの履き方(巻き方?)ってよくわかりませんね。
確かに、自分も不器用なんでぐるぐる巻いたあげくまたズレてしまいそうです。
バナナはめずらしい
『東京ばな奈』はなぜ「東京」で「バナナ」なのか。
ずっと気になっているんですが、とりあえずこの時代の東京にはあったようです。
そりゃあ鎖国中の江戸時代じゃないんだから、めずらしい舶来品はまず東京にくるんでしょうね。
ちなみに私はなまなかな東京土産よりも『東京ばな奈』が好きです。
甘いものに飢えている昔の子どもがバナナ食べた時って、あの『東京ばな奈』のカスタードのように甘く感じたとしても不思議じゃありませんね。
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特に昔のバナナは「グロスミッチェル種」といって、今のバナナよりもずっと美味しかったそうですし。
あ~、食べてみたかった。
(進一)
そうだ! 戦争がおわって東京へかえったらバナナおくってあげるよ
(タケシ)
ぜひたのむよ でもおくるとくさってしまうんじゃないか
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』秋の章/中央公論社)
昔は高級品だったらしいのですが、やはり進一君は山の手の坊ちゃんなのでしょうか。簡単に送るとか言ってます。
そして冷静に流通過程を気にできるあたりが、さすがタケシというか、昔の子というか…。
待ち合わせの難易度が高い
学生時代に携帯電話がなかった世代の人は、ギリギリわかる感覚でしょうか?
昔のドラマかなんかではよく「待ち合わせの行き違い」をつかってやきもきさせようとしたイメージがあります。
携帯買ってもらうために親を説得した子がこねた理屈が、
「皆が持ってないなら携帯はなくても不便じゃないけど、皆が持っているから不便」
でしたが、その通りですね。
皆が携帯を持っていると、「随時連絡をとれること」が前提の動きをしますので。
では、皆が携帯できるタイプの通信機器をもってなかった時代はどんなことが起こるかというと…。
(庵主さん)
すんません!すんません!
駅までおむかえにいったんですけど いきちがいになったんやのう!
(お母さん)
まあ そうでしたの
おしらせしたのより一汽車はやいのにのれたものですから
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』夏の章/中央公論社)
…こんなことが起きます。
場所と時間をしっかり守らないと容易にすれ違ってしまうんですよね。
ちょっとしたことですれ違ってしまうのだから結構大変だと思うんですけど、それが当たり前ならそれが普通になるというもの。
いちいちそんなことで空気が悪くなってないあたりが、それを物語っています。
精神主義に毒された軍国主義
登校時、勇ましい掛け声とともに木刀で竹を何十回も打たさられるのがこの小学校のルールでした。
戦時中はよくご婦人が竹やりで訓練しているイメージがありますが、これもそういうことの一環なのでしょう。
私は子どもの頃はアホのように合理主義者かつ貧弱な人間だったんで、こういうのキツイですわ。
(進一)
神州不滅! 米英撃滅!
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』夏の章/中央公論社)
こんなことをしていたら勝てるとでも言うのでしょうか?
軍事こそ精神主義ではなく合理主義であるべきです。孫子、孫子。
元・読売ジャイアンツの桑田選手もテレビで言うてました。「根性でアウトがとれますか?」って。
恐ろしいのは本質的にはこういう体質から抜け出せない日本の組織っていまだに少なくない数あるってこと。
「遺物」と笑えないあたりが恐ろしい。
一人一人が努力して、もっと住みよい社会に変えていかねばなりません。これからの日本を支える子どもたちのためにも。
少年の夢は兵隊さん!
今の子どもたちの夢は「YouTuber」なのかもしれませんが、この時の夢は「兵隊さん」でした。
「目についたものが夢になる」
「目に触れる範囲でしか夢は選べない」
医者の子供は医者に、政治家の子供は政治家に。
軍国主義の国では、多くの子どもの夢は兵隊になるのです。
昭和18年5月5日付官報で 満14歳にたっしたものは陸軍の各種少年兵に志願できることとなった!
これによって国民学校を卒業後 ただちに少年兵となって陸軍にはいれるようになった!
(タケシ)
ああ! 少年飛行兵になってB29をやっつけてやるんや!
(進一)
でも・・・・それまで戦争が続くかしら
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』夏の章/中央公論社)
正直、14歳を戦争に駆り出すなんてどうであれ常軌を逸しています。
ことここに至ったのであれば、共同体のリーダーとしては「戦後」を考えなければならないはず。
14歳の子どもたちの命をいたずらに散らしている場合ではないんです。
「日本国」を思うのであれば、なおさらですよ。税金と国民の労力をかけてここまで育てて、「これから」の日本をしょって立つ子どもたちなのですから。
最終兵器!・・・ヨモギ
さて。
戦況は日々悪化し、ついに米軍が沖縄に上陸。
一億総動員!いまや国民の一人ひとりがお国のために奉公しなければならない・・・ということで、富山ではヨモギを採集して供出することになりました!
…しかしなぜヨモギなんでしょうか? まぁ、兵隊さんに草もち作ってあげるくらいの使い道しか想像つきませんね。
高学年の生徒は一人一貫目(=3.75kg)の提出が義務付けられましたが、これはかなりキツい。
提出の際には水気を抜いた状態で出すんでしょうから、実際にとらなければならない量はそれ以上。
まして同級生にとられたらおしまいですから。
うーん。でもそんなにたくさん草もち作って流通とか保存とかいろいろと大丈夫でしょうか?
(マサル)
ヨモギなんか供出してなんの役にたつんやろ? 草もちでもつくって兵隊さんに食わせるんかしら
(タケシ)
ばかっ ヨモギはな火薬の原料になるんや! おぼえとけ
(藤子不二夫Ⓐ『少年時代』再び夏の章/中央公論社)
はい。すみません…。おぼえました。
せっかくなのでウィキペディアで調べてみました、パイセン。
どうもヨモギと尿を一緒にして適切な温度で保管することで、根球細菌のはたらきにより「硝酸」が生成されるそうです。
本願寺の秘伝で、戦国時代当時の「軍事機密」であったとか。
・・・・マ・ジ・かーー!
驚いたのは歴史ロマンの話じゃなくて、この末期的な戦況の中で、子どもがヨモギ摘むところからはじめるのかっていうその絶望的な状況のことです。
これ、レストランに入ったら豚を屠殺するところからはじめたとかそのレベルですよ。
今後の事考えたら、普通に食糧増産とかすればいいんですよ。いずれにせよ必ず必要になるものなんですから。
同じ労力使うにして方向性がおかしい。
いかにも大日本帝国らしい心温まらないエピソードだと思います。
ネバーギブアップとかそういうことじゃなくて、もはや止まらないんでしょうね。組織って。
『少年時代』全体的に軍国主義の色濃い昭和初期あるある・まとめ
今、90年代を生きた子どもたちが大人になり、90年代ノスタルジーのマンガが世に出始めています。
押切蓮介『ハイスコアガール』、山本さほ『岡崎に捧ぐ』。確かに我々にとってノスタルジックな気分に浸らせる作品です。
しかし、『三丁目の夕日』の世界すら飛び越えた戦時中の日本の原風景なんて、ノスタルジー飛び越えて完全に「資料」。
いわゆる「一次資料」「二次資料」といった言葉がありますが、この作品は戦争が終わってから生まれた人が資料を元に描いたものとは、やはり一線を画す「一次資料」なのです。
衣食住なんかは、調べればなんとかなるはずなんですよ。
なかなか再現できないのは、登場人物の"精神性"の違い。
昔の常識的感覚が現代のそれとは結構違っていて「一次資料」をもとに創作した作品との最も大きな差はここにこそでます。
その時代を体験した人が体験したままを描くと「現代的感覚」からはズレているところがあったりするんです。
なぜタケシがあそこまで強固な支配体制を築こうとしたか。
なぜケンスケはその強力な支配体制を徹底的に破壊したのか。
それは財産どころか生命さえも左右する巨大な「権力」によってすべての人が支配されていた「あの時代」の特性のひとつと言えるのではないでしょうか。
そういったものも生々しく、ある意味生き生きと描き出すことができるのは、やはりあの時代を体験した作家ならではと言えるでしょう。倫理観とかちょっとずつ違うんです。
色んな意味で、スマホ世代には必読の一冊に数えるべき作品です。視野が広がりますよ。
それでは、また!
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