『母さんがどんなに僕を嫌いでも』たった一人支えてくれる人がいれば、人は生まれ変われる

実話だからできる正面突破

著者:吉原さん(@yoshihara_san

「児童虐待」というテーマでは、もうひとつ紹介したい作品があります。

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』。作者の半生の自伝的内容です。

『ホライズンブルー』においては、母からの愛情不足により主人公・春子の心は劣等感に満たされ、それを要因の一つとして児童虐待(おもに育児放棄)が起こりました。この場合は「消極的虐待」と言っていいと思います。

対して、この物語の主人公(作者・歌川たいじ)が母から受けた仕打ちはまごうことなく「積極的虐待」と言っていいでしょう。ひどいです。

この作品のすごいところは、最悪の体験があったにもかかわらず問題と真っ向から向き合あって決着をつけるところです。

体験談の強みと言っていいでしょうね。フィクションでは嘘くさくなることを恐れてなかなかそこまで描けません。

“圧巻”と言っていいくらいです。

それでは、よろしくお願いします!

壮絶人生1.肥満でいじめられる

この物語の主人公・たいじ君が太るにあたっては、あたたかくも悲しいわけがあります。

ある時、母は家出。父はたいじ君を完全に無視。といわゆる育児放棄を受けます。

母の家出が終わるまでの間、彼は父の経営する工場の人たちに面倒を見てもらいました。

そして母が戻ってからも工場の人たちは愛情と「食べ物」をくれたので、次第に彼は超肥満児になっていったのです。

食べものもらいすぎて肥満児に
(エンターブレイン/歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第1章 東京スカイツリー」)

またある時期から彼の母は料理を作らなくなり、代わりに冷蔵庫に食べ物を買って入れておくだけになりました。

しかし幼いたいじ君にとってはそのことが母との唯一のつながりのように思えたのです。そして食べ物を「承認」の証と考え、ひたすら冷蔵庫にあるものを食べ続けた結果、彼はますます太りました。

小中学校を通じて彼は過酷ないじめや仲間はずれを受けることになります。

壮絶人生2.施設にぶちこまれる

9歳。

たいじ君は父親から徹底的な尋問を受け、母が若い男とデートにでかけたことをバラシてしまいます。

それをきっかけに、彼は遠く離れた施設にぶちこまれました。

母による、離婚がまとまるまでの情報統制のためです。

そこは虚弱体質の子どもたちを預かる施設でしたが、問題児であるために預けられた子どもたちも少なからずいたように思えたそうです。

施設での暴力
(エンターブレイン/歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第1章 東京スカイツリー」)

大人しい子は狂暴な子の暴力吸収装置であることは古今東西変わりませんね。ガッデム。

壮絶人生3.母による本格的児童虐待

離婚は成立し、家には母の「カレシ」が住むことに。

そして、その「カレシ」は何度も入れ替わりました。

作者が「カレシ」とカタカナで表記したことにも意味があるんでしょう。

「彼氏」ですらない。

母はカレシたちとケンカを繰り返し、ストレスが溜まったのかたいじ君への本格的な児童虐待がはじまります。

麺打ち棒でめった打ち。

タバコの火を押しつける。

包丁で切りつける。

最悪です。

母による虐待
(エンターブレイン/歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第2章 東京・食肉市場」)

わりとライトな絵柄で描いてますが、最悪ですよ。

子どもは逃げることも反撃することもできないですから。

「子どもを守ろう」の中身には「選択肢のない人間に責任はない→責任能力のない人間を責めてはいけない」って意味もあると思います。

「ばあちゃん」

しかし、たいじ君の人生を大きく変える存在として「ばあちゃん」がいました。

「ばあちゃん」。

正確にはたいじ君と血のつながった祖母ではなく、父(経営者)の工場の従業員でした。

たいじの「ばあちゃん」
(エンターブレイン/歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第2章 東京・食肉市場」)

幼いころから父の工場に出入りしていたたいじ君を見守ってくれる「第二の母」のような存在だったようです。

子ども時代のたいじ少年にたっぷりと愛情を注いでくれたのは、この第二の母である「ばあちゃん」だけだったのではないでしょうか。

たった「一人」でも、自分を受容してくれる。承認してくれる。信じてくれる。

そんな存在がいるだけで、どんなに世界が違って見えるか。

ばあちゃんがしてくれたこと

たいじ君が施設に入る話がでた時も、肉食獣のような母に正面切って反対してくれました。

ばあちゃんだけが寄り添ってくれた1
(歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第1章 東京スカイツリー」/エンターブレイン)

施設に入る日はついてきてくれて、四角い缶を手渡してくれました。

開けるとばあちゃん宛に宛名書きされた官製はがきが何十枚もでてきて、「いやなことや困ったことことがあったら、書いてポストに入れてね」と書かれた手紙が同封されていました。

ちょっと言葉にならないですね。

そして、時は流れ。

がんにより病床に伏すばあちゃんの病室で。

自虐的に自分が太っていることをネタに笑いをとろうとするたいじ君にたいして、自尊心を取り戻すきっかけを与えてくれました。

ばあちゃんだけが寄り添ってくれた2
(歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第1章 東京スカイツリー」/エンターブレイン)

未来に向けて歩みはじめる

この物語の主人公・たいじ君はもともと問題解決志向型の人間だったのだと思います。

あまりに幼かったときは荒れ狂う家庭内暴力に対応できなかったかもしれません。

しかし、自炊することにより自力で肥満を解消。

さらに家出のために高校も中退しますが、食肉市場で生計を立てます。

さらっと描いてますけど、これだけでもなかなかできることじゃないですよ。

そしてばあちゃんから「未来」を選ぶきっかけをもらってからは、独学で大検に取りくみ大学へ進学、ついで大企業へと就職。

はじめこそうまくいかなかったものの、トップ営業マンの仲間入りを果たします。

次第に周囲の羨望を集め、ずっと欲しかった友人たちにも恵まれていくことになります。

このことが、母を受け入れる土壌を育ててくれたんでしょうね。

母との再会

紆余曲折を経つつも、自分らしい人生を過ごしていたたいじ君に、母からの電話がかかります。

最終的に幸せな再婚を果たしていた母は、その再婚相手が死んだ悲しみを紛らわすためなのか息子を呼び出すことにしたのでした。

ここから母とがっぷり四つに組んでの真っ向勝負がはじまります。

母と向き合う
(エンターブレイン/歌川たいじ『母さんがどんなに僕を嫌いでも』「第4章 隅田川」)

その後、どのような経緯をたどるかは本編を読むにまかせるのですが、まさにタイトルどおり『母さんがどんなに僕を嫌いでも』というタイトルにふさわしい堂々たるものでした。

まとめ

この作品を読んで「人間関係を修復する」ということについては今一度改めて考えたいと思えました。

自分を振り返ると、切り捨てて終わってしまっているところが多かったのではないか、と。

理解されないものはしかたない。理解できないものはしかたがない。

まぁそういうこともあると思いますが、少なくとも今の線引きのラインが適切なのかどうかは検討したくなりました。

そして、「ばあちゃん」

ばあちゃんについて語ろうとすると言葉がでてきません。

特に子や人を育てる立場にある人は、ぜひ手に取って読んでみてほしい作品です。

それでは、また!

1巻完結!

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