著者:吉原三等兵(@Twitter)
日本に約200万人いると言われる「中年童貞」。
中年童貞と最前線で接し続けたルポライター・中村淳彦氏が迫るノンフィクション作品です。
最大の特徴は、その強烈な中年童貞の描写。
作画の桜壱バーゲン先生の中年童貞の筆は、控えめに言って容赦がない。
「これでもか!」とばかりに中年童貞への悪意に満ちた…、いや悪意をとびこえてむしろ愛情すら感じさせるファニーかつ徹底的な筆致が相まって吸引力のある作品となっています。
(桜壱バーゲン先生いわく、マンガ業界は中年童貞率が高いからモデルがたくさんいるのだとか…)
とにかく原作の冷静な語り口と、圧倒的存在感の凄まじい中年童貞の描写の組み合わせが絶妙。
どうやってこの二人がつながったのかわかりませんが、コーディネーターのセンスを感じる組み合わせです。
今の日本社会の問題点はいくつかあると思いますが、その淀みのひとつは中年童貞問題。
注)中年で童貞の個人が問題とは言ってない。
我々一人一人にも関わることですので、注目する必要があります。
最低限、こういう現状があることを認識すべきでしょう。
それでは、よろしくお願いします!
目次
なぜこの本を手に取ったのか?
まずは皆さんの誤解を解かねばならない。
良識のある方であれば、いま若干の不快感と不信感をもってこの文章を読んでいるのではないでしょうか?
「『童貞』なんて個人的な領域の話じゃないか?」
「そんなことで冷やかすなんてガキっぽい」
「デリケートな問題なんだからほっといてやれ」
私もそう思います。
童貞かどうかなんてことは人間の価値を決めません。どうでもいいことだと心から思います。
しかし。
私はこの本をレジに持っていく衝動が抑えられなかった。
どうしてもこの本の「表紙」ににじみ出ていたオーラが見過ごせなかったんですね。
論より証拠、まずは見てください。
漫画ルポ 中年童貞
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』表紙/リイド社)
口角泡を吹き、睨(ね)め上げる目。
『スラムダンク』ばりに噴き上がる体液。
容姿のみならず精神に醜いものを抱えている人間の特有の煮詰まった顔です。
詳しい説明は省きますが、この絵は対象をバカにして見下すだけでは絶対に描けません。
鬼気迫るワンカットであることは疑いようがなく、そこに平田弘史先生による堂々たる題字が浮かび上がります…。
これはもう、「なにかある」と考えざるを得ないわけです。
なぜこの本を読むべきなのか?
物語はニーチェのこの一文を引用するところからはじまります。
貞潔は、ある人々においては徳であるが、多くのものにおいては、ほとんど悪徳である
ニーチェ『ツァラトゥストラ』より
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』冒頭/リイド社)
いや~、心にくい演出ですね。
「童貞≒悪徳」であるという、一見すると無茶な主張を通すには、"箔"が必要と思っての措置でしょう。
おそらく「中年童貞」というのはすべて個人の問題であって、自分とは関係がないと考えておられる方も多いのではないでしょうか?
さにあらず。
本質的には社会問題であり、そのことはあなたの生活にも関わってくるかもしれません(というか関わる可能性大です)。
本人らも含めて被害者の面もあるのですが、これからの超高齢社会の問題とともに誰もが一度は想定し、一考しておくべき問題です。
「中年童貞」とはなにか?
デリケートな問題ですので、まず定義づけをいたします。
本作の冒頭からそのまま引用しましょう。
日本には209万人の中年童貞がいる
これは長野県の総人口とほぼ同数だ
そして その童貞人口は5年ごとの調査でさらに上昇し続けている
中年童貞とは30歳以上の未婚男性で性交経験のないものである
彼らは精神年齢が低く 女性に対する幼児性を秘めている
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』第一章「中年童貞」の受け皿となる介護業界 前編/リイド社)
国立社会保障・人口問題研究所の調査データに基づいて計算しているそうですが、長野県の総人口と言われるとちょっと凄そうな感じがしますね。
ここで重要なのは、それだけのボリュームがあると「社会に与える影響が大きい」ということです。
さて。
日本語上の厳密な定義をすれば中年童貞とは「30歳以上の性交経験のない男性」ということにしかならないのですが、その中身を考えてみたいと思います。
「30歳以上」で「性交経験」がない、という事実自体はただの結果であり、この要件を満たすこと自体がこの作品において問題視されているわけではありません。
本来どうだっていいことであり、もちろんたまたまということもありえます。
またLGBTなど、もっと違うことが原因という方もいるでしょう。
ただ少なくともこの作品の中で取り上げられている「中年童貞」たちは主に対人コミュニケーション(清潔さ等含む)に難がある人間ばかりで、そのことが結果的に「中年童貞」に結びついています。
しかし本人の対人コミュニケーション能力の低さだけが問題だったのでしょうか?
いいえ。
そこはひとつのきっかけに過ぎません。
「中年童貞」の問題の本当の深刻さはそれを生む土壌にあります。
だからこそ本人の個人的な問題のみならず、それ以外の人々への影響も大きいのです。
次回以降は、「収入」と「問題意識」の有無によって、中年童貞を4つに分類して個別に見ていきます。
- 収入は多いが、問題意識はない→AKBトップオタ・増井
- 収入が少なく、問題意識もない→職場クラッシャー・坂口
- 収入が多く、問題意識もある→ミソジニー・松野
- 収入は少ないが、問題意識がある→ネット右翼・宮田
最後に、裏表紙を見てみましょう。
これを見て感じ取って欲しいのですが、やはり「なにかを抱えた面々である」ことがわかるはずです。
ルサンチマンと言えばいいのか、他に適切な語句があるのか。
いずれにせよ、鬱憤(のようなもの)がたまっていることは間違いない。
私達はその負のエネルギーが向かう先を想像しなくてはならない。
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』裏表紙/リイド社)
それでは、また!
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『漫画ルポ 中年童貞』の他記事
『漫画ルポ 中年童貞』①壮絶すぎてギャグ!なのに笑えない日本の未来←今ここ
『漫画ルポ 中年童貞』②人畜無害なAKBトップオタ・増井(33)の場合
『漫画ルポ 中年童貞』③社会が生んだ職場クラッシャー!ヘルパー2級・坂口(44)の場合
『漫画ルポ 中年童貞』④女に絶望して男で童貞喪失!上場企業SE・松野(36)の場合
『漫画ルポ 中年童貞』⑤現代の(亀)仙人か!?年収150万円の人生勝ち組ネット右翼・宮田(44)の場合
あわせて読みたい
『ルポ 中年童貞』中村淳彦
原作です。
一度は介護業界に身を置いた元フリーライターの作者が、実体験を出発点に中年童貞の恐ろしさを警鐘を鳴らす一冊。
活字で読みたい方はこちらでどうぞ。
『初期のいましろたかし』いましろたかし
中年で童貞の「山下」というキャラクターが出てくるんですが、私はこの登場人物が大好きで。
(表紙に出ている人物です)
こじらせ方にもジャスティスがあるというか、まっすぐ。
それなりに普通に生きてる弟とのやり取りも、なんとも言えなくてね…。良いんです。
『最強伝説黒沢』福本伸行
最強の中年童貞といったら、やっぱり黒沢。
40代。諦観があるというか、堂に入っている感もあります。
「いつしか恋人たちは気にならなくなり、それよりも家族連れが目に痛くなった」という描写は秀逸でしたね。
『Bバージン』山田玲司
時はバブル期。生物オタクの大学生が、好きな子と添い遂げようと悪戦苦闘する話。
どこを切っても「山田玲司」。
あんまり色々言うと難しい。ただ、好きか嫌いか聞かれれば、うん。好きなんだ。