著者:吉原三等兵(@Twitter)
さて。
ここからが「中年童貞」問題の中心地。
『漫画ルポ 中年童貞』⑤現代の(亀)仙人か!?年収150万円の人生勝ち組ネット右翼・宮田(44)の場合
で、ご紹介するネット右翼・宮田によって中年童貞は介護職員、農業関係者、ネット右翼に多いことが明かされますが、ここでは介護職員の坂口を中心に、「問題意識がなく収入の少ない」中年童貞をご紹介します。
『漫画ルポ 中年童貞』①壮絶すぎてギャグ!なのに笑えない日本の未来
『漫画ルポ 中年童貞』②人畜無害なAKBトップオタ・増井(33)の場合
『漫画ルポ 中年童貞』③社会が生んだ職場クラッシャー!ヘルパー2級・坂口(44)の場合←今ここ
『漫画ルポ 中年童貞』④女に絶望して男で童貞喪失!上場企業SE・松野(36)の場合
『漫画ルポ 中年童貞』⑤現代の(亀)仙人か!?年収150万円の人生勝ち組ネット右翼・宮田(44)の場合
中年童貞分布図の赤色部分ですね。
それでは、よろしくお願いします!
目次
問題意識がなく収入の少ない中年童貞
職場を侵食するヘルパー2級の坂口やその子分・上田、無謀な婚活を繰り返す蒲田、現実逃避型のアニメオタク本山が該当します。
作中だけではなく、実態としてももっとも母数が多い「中年童貞」です。
その中でも、自分の置かれた状況に気づいて絶望しているアニメオタクの本山と、そもそも現状にまったく気づいていない坂口・上田、蒲田のようなタイプに分けられます。
いわゆる「中年童貞」の問題は、現状に気づいてすらいない坂口や上田、蒲田のような人間たちが引き起こすことがほとんどといっていいでしょう。
中年童貞・介護職員の共通点
原作者が介護現場で遭遇した中年童貞は、疑いのあるものも含めれば8人いたそうですが、その8人にはたくさんの共通項があったとのこと。以下に列挙します。
- ハローワークでヘルパー2級を受講取得
- プライドが異常に高い
- 貧乏
- ダラしない
- 嘘をつく
- 言い訳する
- 人生で成功体験がなにもない
- 勉強も運動も苦手
- 実家にパラサイト
- 学歴が低い
- 弱い者イジメ好き
- 健康状態が悪い
- 愚痴と悪口が好き
- 性格が悪い
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』コラム 現実の介護現場は漫画そのままだった/リイド社)
さて。
このような人物(特に、プライドが異常に高い、嘘をつく、弱い者イジメ好き、愚痴と悪口が好き、あたりがヤバい)が職場に投入されるとどんなことが起こるでしょうか?
ここでは、本作誕生のきっかけとなったヘルパー2級の坂口をとりあげてご説明いたします。
(坂口)
44歳で童貞だけど… 将来… いつか必ず
このオレのことをすべて受け入れてくれる女性が現れるはずだーーー!!
その日まで 童貞のキレイな体のままでいたい!!
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』第一章 「中年童貞」の受け皿となる介護業界 前編/リイド社)
彼の問題はどこにあるのでしょう?
漢字が書けなくて、介護経過表を2行書くのに1時間かけたことでしょうか。
すぐに疲れて30分くらい座りこんで休憩とるところでしょうか。
送迎もレクリエーションも入浴・食事介護・身体介助、何ひとつ一人じゃできないことでしょうか。
それらもすべて問題なのですが、一番の問題は「助けてもらうのが当たり前の態度」。
いや、本人は「助けられている」という感覚すらないんでしょうね。
(坂口)
オレは介護をするためにヘルパー2級を取得して雇用されたんだ!!
文章を書くためじゃない!!
そんなくだらないことはヒマなヤツがやっとけ!!
(中村淳彦×桜壱バーゲン『漫画ルポ 中年童貞』第一章 「中年童貞」の受け皿となる介護業界 前編/リイド社)
結果、他の職員は疲弊し次々と退職。
さらに、高額な求人費を投じて採用した新人パートも坂口がいびりたおして続々と辞める事態が起こり、施設は存続の危機に。
介護は重労働で低賃金と言われますが、そのことよりも離職理由のトップになるのが「人間関係」なのだと、マンガ作品の合間に挟まれる作者のコラムで読みました。
まぁ、そうでしょうね。
坂口はこの後、何度も退職を勧告されますが、固辞。
今でも小規模デイサービスで介護職員を続けながら、他人の悪口を言い続けているそうです。
坂口(44)が中年童貞になったわけ
「母親に溺愛されて実家暮らしを続けるパラサイト・シングル」であることも、中年童貞の共通項だそうですが、坂口もそのまんまの人間です。
彼は中卒で町工場に就職。介護職に就く前は仕分け作業の契約社員でした。
昨今の流行りの教育方針は「褒めて育てて承認欲求を満たしてあげること」だと言われますが、いつまでもそれをただ甘受するだけの人間に対しては、それじゃいかんってことなのでしょうね。
加えてリーマンショックやいわゆるグローバル化、非正規社員の常態化などもあいまって、我々の社会環境は激しさを増すばかり。
坂口のような層の人間たちは、より一層排除される方向に加速しています。
ひと昔前の言葉で言えば、典型的な「負け組」ですね。
(まぁ、世の中のほとんどの人は生まれによって『負け』に属する人間になるのでしょうけど)
また比較して女性の意思が尊重されるようになってきて、「お見合い」という制度も事実上はほぼなくなりました。
2016年に話題になったこうの史代『この世界の片隅に』主人公の「すず」さんだって、顔も見たことのない男性との結婚を親が勝手に決めていますが、今だと考えられないことですよね。
しかし。
当たり前のことですが、恋愛の自由市場と化した今。
誰が好きこのんで坂口のような人間と一緒になるでしょうか?
いまや低賃金・長時間労働が常態化し、ふつうの人たちでさえ結婚ができないのが現実です。
いくら坂口が「キレイな体」(不潔だけど)を誇っても、中年童貞から抜け出すのは厳しいでしょう。
『漫画ルポ 中年童貞』③社会が生んだ職場クラッシャー!ヘルパー2級・坂口(44)の場合・まとめ
坂口個人のまとめというより、大多数の「中年童貞」に対するまとめになりますが…。
正直、坂口のように生物として弱い存在は、どうであれ存在するものです。
今はそういった存在の人間たちばかりでなく、多くの普通の人間たちも追いこまれ、彼らが獲得可能であった果実をどこかのだれかが「勝者総取り」で独占しているのが現実です。
ここで私は自己責任論者や競争至上主義者、もっと本質的に言えば拝金主義者の人間たちと議論する気はないのですが、問題は多くの弱い人やふつうの人をここまで追い込んだときに生まれる「負」の面はやはり大多数である「ふつうの人たち」が引き受けていかねばならないということです。
私は不思議でならないんですよ。
上級国民でもないふつうの人間たちが「自己責任だ」と簡単に上から目線でものを言えてしまっている現状が。立っている場所は地続きですからね?
本人の問題は本人が自己責任で引き受けるだけなのですが、問題は本人の責任範囲に収まらないのです。
犯罪は増えるでしょう。犯罪の被害者も増えるでしょう。その被害者は大多数である「ふつうの人」です。
犯罪として目に見える形でなくとも影響はあります。
介護現場に政策的に大量に投入された坂口のような人間たちは、「相模原障害者施設殺傷事件」まではいかなくとも、今日もめまいがおきそうな小事件を繰り出し続けているはずです。
あなたは自分の母親や妻を、入浴介助に異常興奮する職員のいる介護施設に預けることができますか?
例えば当たり前ですが、上級国民はこんな施設には入りません。そして、こんな施設ですら月々数万から数十万の金額を支払い続けなければならないという現実を引き受ける覚悟はありますか?
弱者を弱者と切り捨てることは簡単ですが、元来彼らが得ていた果実は決してあなたの懐には入っていません。
違う誰かのポケットの中です。
にも関わらず、その代償は弱者本人はもとよりあなたたち・私たちが支払っていかねばならないという現実のひとつを『漫画ルポ 中年童貞』は見事に表してくれています。
次の記事、
『漫画ルポ 中年童貞』④女に絶望して男で童貞喪失!上場企業SE・松野(36)の場合
では、この「中年童貞」の抱える問題に悩み、そこに真っ向から取り組んだ男をご紹介します。
『漫画ルポ 中年童貞』④女に絶望して男で童貞喪失!上場企業SE・松野(36)の場合
それでは、また!
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『漫画ルポ 中年童貞』⑤現代の(亀)仙人か!?年収150万円の人生勝ち組ネット右翼・宮田(44)の場合
あわせて読みたい
原作です。
一度は介護業界に身を置いた元フリーライターの作者が、実体験を出発点に中年童貞の恐ろしさを警鐘を鳴らす一冊。
活字で読みたい方はこちらでどうぞ。
『初期のいましろたかし』いましろたかし
中年で童貞の「山下」というキャラクターが出てくるんですが、私はこの登場人物が大好きで。
(表紙に出ている人物です)
こじらせ方にもジャスティスがあるというか、まっすぐ。
それなりに普通に生きてる弟とのやり取りも、なんとも言えなくてね…。良いんです。
『最強伝説黒沢』福本伸行
最強の中年童貞といったら、やっぱり黒沢。
40代。諦観があるというか、堂に入っている感もあります。
「いつしか恋人たちは気にならなくなり、それよりも家族連れが目に痛くなった」という描写は秀逸でしたね。
『Bバージン』山田玲司
時はバブル期。生物オタクの大学生が、好きな子と添い遂げようと悪戦苦闘する話。
どこを切っても「山田玲司」。
あんまり色々言うと難しい。ただ、好きか嫌いか聞かれれば、うん。好きなんだ。